号令調整と入室時のマナー
防衛大学校では1年間で3回居室が変わる。勿論それにも理由がある。人員構成を変える事によって、異なる環境や人間関係に適応する能力を鍛える事にも通じる。時には学生舎そのものを移動する事もあり、防衛大学校に春が来た事を告げるものである。
カチッと言うスイッチが入る音と共に、中隊廊下のスピーカーから、起床ラッパの号音が流れる。防衛大学校学生の朝はこうして始まる。学生は、スイッチが入る音で目を覚まし、ラッパの音と同時に毛布を蹴って跳ね起き、直ちに寝室の窓を定められた様に開ける。5枚の毛布と2枚のシーツを素早く畳み、靴下を履き作業服のズボンを履いて、上半身裸体でタオル1本持って飛び出すのは昭和スタイル。男女共学になった今はそんな事はしない。
「2分経過、急げ!」
と、中隊週番学生が気合いを入れている。急いで廊下で運動靴を履いて、全速力で階段を降りて、学生舎前の中隊の定位置に並んだ。階段の昇降は、昇り1段おき、下りは1段ずつ走ると言うのが鉄則である。集合してから、体が赤く成るくらい力を込めて乾布摩擦をする。(今は自衛隊体操)
「ささげー、つつ(捧げ銃)」、「せいれーつ、やすめ(整列休め)」、「じゅうたいみぎへー、すすめ(縦隊右へ進め)」、「ぶんたーい、とまれ(分隊止まれ)」、等と大声で号令調整を行う。号令は部隊を指揮する基本的な手段で、指揮官は的確な号令をかけることが求められる。防衛大学校学生は、何度も声を潰す事でようやく、よく通る大声で号令をかけることが出来る様に成る。要員内示の朝もそれは変わらない。
中隊指揮官室のドアをノックして、入室する時に限らず目上の者がいる部屋に入る前には、必ず「第○○小隊、第○学年、○○学生入ります。」と言わなければならない。指導教官室には、中隊指揮官と二人の小隊指導員が待機している。
「道上学生は、どの要員でも構わないと希望しているが、そんな学生は滅多に見ない。となると、君の性格や能力、そして他学生の志望状況を加味すると、やはり陸上要員に最も適していると結論付ける。」