いざ鎌倉
道上らは三笠艦内を見学し、記念写真を写すなど小一時間程してから横須賀駅に向かった。三笠公園を出て米海軍横須賀基地を右に見ながら20分も歩くとJR横須賀駅に出る。この辺りでは、米海軍の下士官や水兵の姿が見られ、近くにはドブ板通りと呼ばれる盛り場があり、米兵の溜まり場となっている。
面積2363平方㎞の広大な米海軍横須賀基地は、一つの岬を丸々接収しているが、基地にはかつて、一般住民の居住区域も含まれていたと言う。と言うのも、敗戦後に米海軍により占領され、地元住民が追い出されたからである。横須賀駅は、明治22年(1889年)に日本海軍の要請で開業、駅舎は何度も改修されたが、階段の無いフラットな構造は、創建当初と変わらない。
道上一行は横須賀駅から鎌倉を目指した。崖と窪地の多い錯雑とした地形を貫通して、多くのトンネルを通過し、横須賀駅から20分、5番目の北鎌倉駅で降りた。
北鎌倉駅は臨済宗大本山円覚寺の門前にあり、里桜の季節で、多くの花見客で賑わっている。円覚寺は、鎌倉時代後期の創建である。七堂伽藍を備えた広大な境内は、満開の里桜を愛でる大勢の人が行き交い茶店がいくつもあり賑わっていた。里桜は八重桜とも言われる様に、豪華で派手な感じでであるが、久しぶりの外出で花見客に紛れると、解放感もあり、心がウキウキして来る。
五月晴れの季節になると、爽やかな薫風が学生舎前のユーカリ並木を吹き抜け、舎前やグラウンドの芝生が青く芽をふき、小原台は、明るい陽光に包まれる。GWが明けると、大学生らしい日常が戻って来た。1年時は、教養課程で、陸海空の区別はなく、共通の訓練を受ける。2年生に進級する時に初めて陸海空各要員に分かれる。防衛大学校には、委員会、文化部、運動部、同好会等の校友会活動に参加する事を義務付けられており、道上は紹介した通り銃剣道部に入る事に決めた。