お金がないから
天野、海倉と同期でもう一人紹介しておきたい人間がいる。それが道上鉄也である。道上は土木工学専攻の陸上要員である。道上が防衛大学校を目指したのは、単純な理由であり、決して誉められた理由ではなかった。と言うのも道上の家庭は経済的に大学進学が困難な家庭に育ったからであった。7人兄弟の次男として生まれた道上は、高校生を卒業したら社会人に成る事を覚悟した。
当然大家族ならそう言う状況に成る事は仕方の無い事なのかも知れない。そんな道上の人生が変わったのは、高校3年生の夏の事であった。どうしても大学進学を諦められない道上を見かねた、進路指導の教員(先生)がそれならば、防衛大学校があると、道上に勧めた事がきっかけであった。生活費も支給学費はタダそんな魅力のある大学は防衛大学校と、防衛医科大学校位である。その代わり卒業後は自衛隊の幹部として、陸海空各自衛隊に配属される事になる。
特にこれと言って、成りたい職業も無かった為、道上はあっさり防衛大学校に進学を決める。一度こうと決めたら、どんな事でもやり抜いてしまう持ち前の粘り強さで、難関であった防衛大学校の入学試験もなんなく突破した。同じ高校からは防衛大学校に入学する者はいなかった為、道上は周囲から大夫珍しげに見られたが、それが誇らしかった。まだまだ、自衛官に対する考え方は、国民に浸透しているとは、とても言い難い状況ではあった。
金の無い道上の様な人間にとって、制服の貸与や何から何まで貸与支給されるのは、嬉しい悲鳴であった。勿論、国民の税金で借り物である以上は、卒業時にきちんと耳を揃えて返さなければならない。銃の貸与の時に限っては、否応無く自分が士官候補生である事を、感じずにはいられなかった。防衛大学校を志願した理由が、お金がかからずに勉強出来ると言うものであったが、こうして入学してみると、そんな甘いものではない事がありありとよく分かった。