プラッシーボ効果
防衛大学校初代校長で慶應義塾大学教授だった槙智雄の言葉を借りるとするならば、道義は社会を離れて考えられない。持ち場も社会も無視してあり得るものではなく、道義は外力による束縛ではなく、進んで自ら行いに服する調子の高い秩序であり、戒律節制のある生活様式である。この様な団結に身を投じる事は、服して自由を失うものではなく、より高い自由を獲得する事である。
防衛は国民の信頼の上にあるものである。世間の防衛大学校に対する信頼は、防衛任務に対する我々の誠実によってのみ得られるのである。この誠実を可能ならしめるのが、小原台の心の環境である。槙智雄はそう言う。それは今も昔も変わる事の無い事実であり、防衛大学校が存在している限り不変のものであるだろう。時代の流れやニーズによって、生徒を教える側も変わって行く事を求められる事もあるだろう。
しかし、防衛大学校の根幹にあるこの理念は、決して揺らいではならない。陸海空各自衛隊の幹部となる人間を養成する士官学校であると同時に、大学設置基準に拠る教育が行われている以上は、きちんとそれらを踏まえたありのままの現実を生徒に教える側も把握しておく必要はあるだろう。今では、女子生徒も採用しており、防衛大学校は、時代の変化に対応していると言える。優秀な人材の多くは、男女問わない。これは最早、世界の常識となっている。
米国では、総兵力の20%は女性が担っていると言う。男社会だった、男だけが活躍していた兵隊の世界では無くなりつつあると言うのが現状であり、女性将校や女性の将官も誕生して来ている。女性が頑張る事で、男性もそれにつられて頑張る。プラッシーボ効果とも言える正のスパイラルである。偏狭な軍事専門家を育成すると言う考え方は、建学当初から皆無であり、防衛大学校学生には、政治に関与しない事の重要性を理解させるのと同時に、バランス感覚の取り方をきちんと学ばせている。




