校長式辞
小原台新校舎移転は、空前絶後かつ失敗の許されない壮大な実験とも言えた。戦前の軍学校とは異なり、防衛大学校の教育は「陸海空三自衛隊統合の教育・訓練」、「大学設置基準に拠る教育」、「豊かな人間性を函養する紳士教育」、「理工学中心の教育体系の採用による科学的思考力と創造力の函養」等に特色がある。槇智雄は、校長式辞で希望に満ちた新入生を前にしてこう述べている。
「本校の学生には他に見られない恵まれたものがあります。おぼろ気ながら諸君もこれを意識していましょう。我々の思う所によれば、その最大のものは、共に起居し、共に練磨する団結ある一団である事であります。その成果を挙げずして、何のかんばせ(顔)あって国民にまみえんやと言う事でありましょう。フランス語にノブレス・オブリジェ(noblesse-oblige)と言う古い言葉があります。近代的に意訳すればこうなります。」
「恵まれた者には義務が伴う。と言う事でしょう。正に剛勇、仁慈、高潔等の徳を備える事を意識していたのであります。いわゆる道徳的義務、又は道義の伴う事を言うと、解するのが適当でありましょう。諸君は今回、防衛大学校と言う教育機関に入校して、その学生として持ち場を得たのであります。道義は社会を離れて考えられません。また、持ち場も社会を無視して有り得るものではありません。防衛大学校と言う一つの小社会の環境は、この道義の行われる持ち場に外ならないのであります。道義は外力による束縛ではなく、進んで自ら行い服する調子の高い秩序であり、戒律節制のある生活様式であります。ルッソーと言う18世紀の哲学者の考えを借りれば、この様な団結に身を投ずる事は、服して自由を失うのではなく、より高い自由を獲得する事であります。防衛は、国民の信頼の上にあるものであります。世間の本校に対する信頼は、防衛任務に対する我々の誠実によってのみ得られるのであります。この誠実を可能ならしめるのが、小原台の心の環境であります。」
と、述べている。




