入校時訓練と容儀点検
4月いっぱいかけて3週間の入校時訓練が終わると、1年生も上級生に伍して日常生活が出来る様になり、外見上は防衛大学校生らしくなる。また、入校時訓練開始時にいきなり銃の貸与式がある。これは、相当なカルチャーショックであり、平和な学校生活を送っていた高校生なら、誰でも衝撃を受ける事だろう。
与えられた銃は時代により異なるが、基本的に部隊の標準装備になっている銃が学生に貸与される。この与えられた銃を国民の銃として卒業まで管理する。小銃の取り扱いや操作に整備等の教育を受け、最終的には目をつぶって分解・結合出来る様になり、2年生からは、実弾射撃訓練も行われる。
この間に防衛大学校の体質に馴染めず、例年何人かの学生が早々と退学する。海倉も迷ったが、折角苦労して入れたにも関わらず、すぐに辞めるのは、何だかシャクであった。入校時訓練の間は大学生らしい授業は無く、週末の外出も無く、起床から消灯まで、時間に追われる毎日で、うっくつした精神状態になる。
そんな頃合いを見て、最上級生である4年生が1年生を散歩に連れ出してくれるのが、小原台の伝統の一つであった。散歩のコースも大抵決まっていて、小原台→花立砲台→観音崎→小原台と言うコースであり、くだんの橋(眼鏡橋)や、ゴジラ海岸(正式名称たたら浜)によるのが定番である。入校式から16日後にはようやく外出の許可もおり、初めて小原台から外出出来る様になる。
しかし、その外出に行くのも一苦労であると言う事を思い知らされる。外出前の関門(儀式)とされているものがある。それが容儀点検である。上級生下級生を問わず、外出者は全員週番学生(4年生)による容儀点検にパスしなければならない。頭の先から爪先まで、くまなくチェックされる。髪が伸びていないか?制服はきちんとプレスされているか?靴下は正規のものか?靴はピカール(研磨剤)できちんと磨かれているか?ハンカチは持っているか?身分証明書(学生証)はきちんと持っているか?金属部はきちんと磨かれているか?9ヵ所をザッと上げただけであり、これ等以外にもチェックされる箇所はある。