若年定年制度
この小隊長について行けば犬死にしないで済むと、道上小隊長の力量に小隊陸曹が最低限の合格を出した。防衛大学校出身と言うブランドだけでは幹部として認めないぞ。と言う厳しい現実がある事も事実である。小隊長には合格したが、肝心の憲法改正は遠くなり、自衛隊が国軍となり、特別職国家公務員である自衛官が正規軍人としての名誉を与えられる可能性はほとんど無くなった。
自衛隊と自衛官と言う曖昧な制度に相変わらず定着してしまっている。道上は、日々の勤務の充実感とは裏腹に、虚しさを覚える様になった。翌日、防衛大学校時代に、「定年まで自衛官を勤めると言う事を考えた事があるか?」と、同期生から質問された事を思い出す様な、ショッキングな話が耳に入る。
「小隊長、うちの部隊からまもなく定年退職者が出る様です。」
「え?定年退職者?」
「ええ。現在の自衛隊の制度では、三曹の定年は53歳となっています。」
「一般企業が60歳定年と考えると、53歳定年は早いな。」
階級による誤差はあるものの、一番階級の高い将官でも60~62歳が限度の若年定年制度を自衛隊はしいている。国家に対する職業軍隊(国軍)の忠誠をいかにして確保するかは、古今東西の大きな課題である。旧日本軍は、天皇様=国家として陸海軍の忠誠の対象を天皇様に求め、日清・日露戦争までは成功したが、昭和以降は、周知の様に国家そのものを滅ぼした。
自衛隊は発足時の複雑な経緯もあり、健軍の本義等は一種のタブーで、議論すら為されていない。現行政府=国家として考えた場合、自衛隊・自衛官の忠誠の対象としてすっきりと納まらない。と言うのが道上の実感である。戦後の日本国政府は、自分達を正統な存在として認めていないのだ…。自衛隊が軍隊として認められなくても、有事の際に戦える戦力を維持しておく事は絶対に必要な事であるし、誰かがやらなければいけない事である。