三等陸尉昇進
こうして朝食の前に、訓練出発準備即ち戦闘準備を完了させておくのである。訓練終了時には戦車を整備をし、燃料を満タンにし、戦車砲や対空機関銃など、搭載火器の手入れを済ませてから、個人の後始末をする。戦車部隊では戦車を常時即動態勢に維持する事が最優先される。
BOCの教育は、小隊長要員の幹部学生にこの様な事を実地体験させながら、戦車兵の心構えと躾を身に付けさせる。道上達のクラスは14人の少人数であるが、訓練時はいつも4両の90式戦車が配当された。4人ないし3人に1両の戦車が与えられ、学生は4人の乗員の役職(戦車長、砲手、操縦手、装填手)を交代しながら、戦車兵としての各乗員の技量を完璧に身に付ける。戦車小隊長は、戦車4両を指揮するが、その前提として単車の指揮をマスターしなければならない。
平成27年3月20日早朝、定刻通りに起床ラッパが宿営地の静寂を破った。3月下旬とは言え、海抜900メートルの宿営地の早朝は身震いする様な寒さである。この日は快晴で、雪化粧の富士山は8合目以上が紅に染まっている。道上達は、起床後、上下つなぎの戦闘服とブーツで集合した。学生と管理要員を前にして、訓練班長井上二佐が訓示を垂れた。
「本日、機甲科幹部初級課程の14人の学生達は、三等陸尉に任官した。機甲科職種の将来を担う、新進気鋭の青年幹部の誕生である。14人の諸官にはおめでとうと申し上げたい。野営中の事であり、任官祝いはしてやれないが、諸官は一層の自覚を持って、教育訓練に精進してもらいたい。」
戦前の余裕のあった時代には、連隊をあげて盛大な少尉任官式を行ったものだが、今はその様な事はあまりなく、この様に口頭で伝えられるのが精々である。防衛大学校を卒業して1年。第58期生は、この日全国各地のそれぞれの場所で、三等陸・海・空尉に昇進した。