G3地区
本通り(国道138号)の正面には、宝永4年(1707年)11月に富士山が噴火した時、厚さ3メートルの火山灰で半ば埋まった富士浅間神社の石鳥居が立ちはだかる。富士浅間神社の境内には須走口5合目行きバスの発着所があり、夏は大勢の登山家で賑わう。道上鉄也を含む14人の戦車小隊長の卵は、平成27年(2015年)1月9日、機甲科幹部初級課程(BOC)に入校した。
前年10月に久留米の幹部候補生学校を卒業し、北海道から九州・沖縄まで、全国各地の戦車大隊(各人の母隊)で3ヶ月間の隊付け勤務を終えるばかりである。北海道の部隊は、国産の90式戦車や最新鋭の10式戦車を装備している。道上が所属する第201戦車大隊は、富士学校の教育支援が本来の任務であり、戦車のほとんどが国産の戦車である。
どんな戦車に乗車しても対応出来るよう、あらゆる車種を装備しているのも、大きな特徴であるだろう。BOCは8ヶ月間の教育課程で、戦車小隊長の育成(養成)が目的である。防衛大学校を教養課程とし、幹部候補生学校を幹部共通基礎課程とするならば、BOCは職種専門課程に相当する。富士学校では、普通科と野戦特科のBOCも同時に始まっている。富士学校から富士山方向に少し上ると、G3と呼ばれる地区がある。G3地区は宝永噴火時の分厚い火山礫に覆われた砂漠状の地形で、富士山を背にして遠く箱根連山や御殿場の市街地が見渡せる。
その一角の林間に宿営地を設けて、道上達BOC学生は既に一週間近く露営しながら訓練を行っている。宿営地の朝は早く、6時に起床ラッパが鳴る。学生達は大型の天幕で、エアマット上に広げた寝袋に潜り込み、毛布をかけただけの雑魚寝である。起床後は直ちに点呼と国旗掲揚を行う。その後、各自の戦車にとりついて、車両点検、暖機運転、車載無線機の調整等を行い対空機関銃・連装銃等の火器や戦車砲・機関銃の空砲を搭載する。