高良山登山トレーニング
さて、4月5日からは陸上自衛隊幹部候補生学校名物の高良山登山走が始まった。登山走は個人競技及び区隊対抗競技で、幹部候補生学校所在地の前川原から、標高320メートルの高良山までかけ上がる事である。本館前からゴールの高良山神社までおよそ5.5㎞、進路は全て上りで、唯一の下りがわずかに4.5メートル程ある。即ち、コースの途中に眼鏡橋があり、その後半が下りとなっているからである。156メートルの高低さ、およそ3㎞の急峻な坂道を必死の思いで上りきると、筑後平野の雄大なパノラマが目の前に広がる。
豊かに広がる筑後平野の沢野を貫いて、筑紫次郎の異名を持つ筑後川が鈍い銀色の光を放ちながら、ゆったりと有明海に向かって蛇行している。ゴールの高良山神社の前で整理体操を行うと、筑後平野から吹き上がる風が心地よい。井浦区隊長に、優勝以外はビリでも2位でも同じで、負けたらただでは済まないと葉っぱをかけられながら、3区隊のメンバーはレースに臨んだ。
幹部候補生学校にいる間はずっと1日1回は必ず高良山に駆け上がる。天候気象の如何に関わらず、また週末の土日や祝日に関係なく、一切の例外無く、ひたすら走るのみ。区隊付教官の飯沼二尉がバイクで先導し、区隊長井浦一尉もバイクで追い上げる。区隊長達はバイクで反転し、幹部候補生達は、ジョギングで痛む足を引きずりながら帰校すると言う毎日である。高良山には、陸上自衛隊全幹部の汗と涙が一木一草に至るまで染み込んでいる。
6月22日、ようやく高良山登山競技会の本番である。井浦区隊長は例の如く、出発直前に3区隊のメンバー全員を集めて、強気の訓示をして気合いをいれた。
「今更何も言う事はない。ただ勝つ事だけを考えろ。一つ積極的に勝負しろ。他所の区隊の野郎を見たら食らい付いて行け。抜かれたら必ず抜き返せ。」
そして、こう締め括った。
「一にも、二にも、三にも精神力あるのみ。ゴールと同時に泡を吹いて倒れるぐらいの根性で走れ。」
…続く。