黒色の部屋
通り抜けた先は、真っ暗な部屋でした。
頼りになるのは、手元にあるランタンと、目の前を飛んでいく蝶だけです。
あまりの暗さに怖くなった982は、蝶に声を掛けます。
「待って!もう少しゆっくり、近くで飛んで!」
しかし、蝶は982の言葉には何も返さず、そのままどんどん進んでいきます。
しばらくずっと歩いていくと、目の前で蝶が止まりました。
こちらを振り返り、ただ待っています。
「どうしたの?何が言いたいの?」
蝶はなにも返事をしません。
982はだんだんと怖さが増していきます。
「お願い!何か答えてよ!」
蝶は返事をしませんでした。
982は、蝶に何かあったのではと思い、ランタンを掲げ蝶の様子をもっと詳しく見ようとしました。
すると、ランタンに入っていた炎が蝶のもとへ飛んでいき、蝶はきれいな炎をまとう七色の蝶になりました。
「すごい、きれい。」
982はただただ感動します。
蝶のことをじっと見ていると、蝶が982に向かって飛んできます。
それを982は黙って受け入れました。
体の中にすうっと蝶が吸い込まれていきました。
部屋には明かりはもうありません。
真っ暗の部屋で一人、982はしゃがんで座り込みました。
そして、982はそのまま眠りにつきました。
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10月18日某病院
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
分娩室で、一人の子供が誕生した。
「九夜城さん!元気な女の子ですよ!」
「よかった。元気に生まれてきてくれてありがとう。」
母親は、その女の子を抱きかかえました。
「もう名前は決まってるんですか?」
「はい。この子の名前は“双葉”、“九夜城 双葉”です。」
そうして、この世に九夜城 双葉が誕生した。