青色の部屋
次の部屋は、青色の部屋だった。
さっきまでの部屋と比べて、少し薄暗い廊下に肌寒さを覚えながらも982は歩いて蝶が待っている扉へ向かいました。
扉を開いた先には、予想通り額縁と張り紙がありました。
額縁の絵は、丸の中に半円が三つと、しずくの形が二つ半円の先に描かれていました。
982は張り紙の文字を読みます。
「ようこそ。ここは青色の部屋。
もう一つの扉へいって、戻っておいで。」
今までの部屋とは違い、短い文章に違和感を感じながらも、982は部屋を出ようとします。
すると、今まで他の部屋を見てからしか動かなかった蝶がなんと今回は飛んで先に行ってしまいました。
982は慌てて蝶を追いかけます。
もう一つの扉をすり抜けていった蝶を追いかけ、扉を開けると、蝶が小さな木に止まっていました。
982はそれを見て、安心します。
蝶のもとに近づこうとした瞬間、蝶の背後からカマキリが現れ、蝶を食べてしまいました。
982は急いで蝶のもとへ走り出しました。
しかし、蝶が食べられてしまうのに間に合いませんでした。
羽だけが無残に散って床に落ちます。
982は膝をついて、その羽を眺めます。
胸が苦しくなり、顔から水が流れ出ました。
ポロポロ流れるそれを、982は止められません。
それでも、張り紙の通り最初の部屋に戻らなければと思った982は立ち上がりました。
その時、982の腕を誰かがつかみました。
982はその手の主のほうへ振り返ります。
「どこへ行くの。」
そこには人形がいました。
「どこって、張り紙に書いてあった通り最初の部屋に行くんだよ。」
「どうして?」
「どうしてって、そう書いてあったじゃないか。」
「もう、蝶はいないのに?」
その言葉に、982は言葉を詰まらせます。
なにも返事ができない様子を見た人形は、さらに言いつのります。
「蝶はもういないんだよ。誰が僕たちを導いてくれるの?もう誰もいないのに。」
「873…。」
「僕とここで一緒にいようよ、一緒にいてよ…。」
「873、悪いけど、私は最初の部屋に行くよ。蝶がいなくても、ね。」
「そう、そっか…。じゃあ、仕方ないね…。」
873は982の腕から手を放しました。
呆然と立っている873の様子に耐えられなくなった982は、873を抱きしめました。
「!!どうして…。」
「なんとなく、かな。それじゃあもう行くよ。ばいばい、873。」
「うん。ばいばい、982。」
立ち去るとき、873の雰囲気はさっきよりも明るくなっていました。
蝶がいない中、982は最初の部屋に戻りました。
すると、そこには蝶がいました。
そのことに驚いた982は、蝶に駆け寄ります。
蝶は驚き飛び立ちますが、目の前まで来た982のランタンを持った手の上に止まります。
982はまた、顔から水を流しました。
手に蝶を乗せたまま、982は張り紙に近づきます。
張り紙にはこう書かれていました。
「どうでしたか?
顔から涙が流れて、
“悲しかった”でしょう?
その気持ちも大切なものです。
どうか忘れないで。」
文字を読み終えると、目の前に青い炎が現れました。
さっきと同じように、ランタンへ吸い込まれていきました。
982は張り紙を読んで、あのこみあげてきた気持ちは“悲しさ”で、流れたのは“涙”なんだと知りました。
苦しくて、苦しくていやだと思ったけど、それが大切なものだと書かれていたから、982も大切にしようと思いました。
ランタンを持つ手に止まっていた蝶は982を窺うように見た後、982の表情を見て納得したのか飛び立ち扉をすり抜けていきました。
982もゆっくりと歩きだします。
そうして、次の部屋へと向かったのでした。