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悪役令嬢にスパイは向いてない  作者: 日下部聖


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悪役令嬢が乙女ゲームのシナリオを辿るまで 2


 ――さて、クルトが王立学園に入学することが決定してからのおよそ一ヶ月間で集めた情報をまとめよう。

 わたしのなけなしの原作知識――集合絵から割り出した事実は以下のとおりだ。

 まず、『インアビ』の攻略対象は四人。


 一、第三学年、ハインツ第一王子殿下。言わずと知れたメインヒーローで、わたしの婚約者でもある。そして(恐らく)シャルロットと恋に落ち、彼女を地獄へたたき落とす役割を担う。生徒会役員。

 二、第五学年、マティアス・ヴェッケンシュタイン。わたしの兄で、常に試験では特待生をおさえて首位をキープしている秀才。生徒会長であり、最近メガネを掛け始めたことからも、間違いなく攻略対象である。

 三、第一学年、レオナルド・ティガー。侯爵家の長男で次期騎士団長。蜂蜜色の短髪に焦げ茶の瞳をした、がっしりとしたイケメン。ちなみにわたしは会ったことがない。でも多分俺様系。

 四、不明。

 

 不明なのになぜ攻略対象がいるのがわかるのかと言うと、ヒーローたちとヒロインが並ぶ集合絵の背後に、頭と背中がほぼシルエットの状態で映り込んでいた男性がいたからだ。雑魚悪役と言われていたユリアがラスボスである可能性は低いため、彼がラスボス、つまりは真の悪役である可能性はあるのだが、一応これは乙女ゲーム。隠しルートの攻略対象であると仮定した。

 彼らは、ヒロイン含め集合絵でみんな揃って生徒会役員の腕章をつけていたので、ヒロインは生徒会役員として各攻略対象と交流を深めていくストーリーになっているのだろうと推測される。


『いいか、今回の任務の遂行のために、そして断罪イベント……だったか、それを回避するためにお前が取る行動はこうだ』


 ――常のごとくボスからツーマンセルの部隊長に指名されたクルトは、入学前最後の打ち合わせで、真剣な顔でそう口火を切った。

『まずは成績。座学も護身術の実技も死ぬ気で平均を取れ。……いや、中の上あたりを目指せ。公爵令嬢ユリア・ヴェッケンシュタインとして不自然でない成績を維持しろ』

『その心は?』

『目立つな』

『……』

 まったく、簡単に言ってくれたものである。

 確かに、ボスの元でド厳しい訓練を積んだわたしにとっては、王立学園の試験なぞ楽勝だ。わたしは基本おっちょこちょいなので、本気を出してもオール満点なんてことは無理だろうが、首位レベルの成績を叩き出すことに今更努力は必要ない。零課でも『天才』と言われたクルトなんて、言うに及ばすである。

 しかし平均。平均か……周りをうかがって点数調整なんて、一位を取るより難しいじゃないか。

 めんどくさいなあと思いつつ『クルトは?』と聞くと、彼は一言。

『俺は上位をキープする』

 ハ? と思った。

『……え何それずるくない?』

『ずるくない。平民の俺が公爵令嬢と交流を持つには、ある程度の知名度と周りからの尊敬が必要だ。俺はほどほどに目立つ』

 ほどほどに目立つ、という言葉のパワーワードっぷりにわたしがなんとも言えない顔をしていると、クルトは『振る舞いについてだが』と強引に話を進めた。

『まずヒロイン、シャルロットだったか? 彼女のことはいじめないようにするのは当然として、動きによってはハインツ殿下に苦言を呈すくらいしてもいいかもしれない』

『え、メインヒーローの行動に文句を言ったり嫉妬したりしてるところを見せるのはハイリスクじゃ……ああでも、婚約者がハインツ殿下を優先してるのを放置してるってのも不自然だもんね。何せわたしはユリア・ヴェッケンシュタインなわけだし』

『そういうことだ。だから、注意くらいはしてもいいと思う。でないと……』

『周りが勝手に動く可能性がある』

 わたしが言うと、クルトは深く頷いた。

 ……わたしが何もしなくとも、《《親切なお友達》》が出張ってくることは普通に考えられることだろう。出る杭は打たれる。難儀な世の中だ。

 わたしがいじめなくても他の誰かがヒロインをいじめて、うっかりその黒幕にされてはたまらない。

『ヴェルキアナと繋がってるっていうネズミについてはどうする?』

『まずは情報収集だな。ターゲットは反王太子派の学生レジスタンスかもしれないし、王弟派貴族の子女かもしれない。とにかく人脈を広げて、怪しい人間は徹底的に洗うぞ』

『了解』

『……まあ多少ミスしても、俺がなんとかしてやるから。気張りすぎるなよ、ユリア』

 少し照れたようにそう言ってくれるクルトは、年相応でちょっと可愛い。

 わたしはニカッと笑うと、『頼りにしてるよ相棒』と応えた――。


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