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座学の時間1

 話をする前に私は無くなった水のお代わりをしようとすると、サラーが立ち上がり、どこからか盆を持ってきて全員分の容器を持って行った。そして、水の入った容器を各隊員の卓の前に置いていった。

 私はサラーに礼を言ってから水を一口飲み、近くにあった本棚から慌ただしくゴソゴソと探し物をしているヴァネッサに向けて言う。


「座学といっても基礎的な部分の再確認のようなものだからあまり身構える必要も筆記具や教材を棚から出してくる必要はないぞ」

「あ、そうなんすか? それは良かったっす」

 ヴァネッサは手にした教材を再び仕舞い、自分の席に座って話を聞く姿勢を取った。


 ヴァネッサ、やる気があることは良いことなのだが、教材が要らないと聞いた時の顔が物凄く嬉しそうだったぞ、と思いつつ、それを口にしなかった私は全員が席に座ったことを確認してもう一度水を一口飲んでから話始める。


「さて、まずは魔獣についてだな。

 魔獣について知っていること、覚えていることを――」

「はいはいはーい! 俺が教えてあげちゃうっすよ」

 私が誰か自発的に答えてくれないだろうかと思っているとヴァネッサが勢いよく立ち上がり、右手を上げながら返事をした。


 ああうん、エミリーやイザベラに良いところを見せたいのだろうな、と思った私が発言の許可を言う前にヴァネッサがエミリーとイザベラを一瞥し、腰に手を当てながら得意げに話し始める。


「魔獣はどっから来たか分かんない正体不明の生命体っす。おでこに魔石がくっついていて、そこを潰せば確実に殺せるっす」


 ドヤァという顔をしたヴァネッサが話し終えてから数秒経ったが、彼女から追加の言葉が出てくることは無かった。

 え? 終わりか? こう、もう少しあるだろ、と私が思っていると、静かになった会議室でヴァネッサの左隣に座るメリーナが一声上げてから、恐る恐る右手を上げながらヴァネッサへ話しかける。


「え?

 ......あの、ヴァネッサ。あなた、それで説明が終わりですの?」

「え? 終わりっすよ。何言ってるんすか」

 メリーナが言いたかったことはどうやらヴァネッサには伝わらなかったらしく、ヴァネッサは困惑した顔をしてメリーナを見ながら首を右へ傾げるだけだった。

 どうしよう、これは、私が介入したほうが良いのか、と私が悩んでいると、慌てた様子でヴァネッサの右隣に座っていたイザベラが小声のつもりだが全員に聞こえるくらいの声でヴァネッサに助言をする。


「ヴァネッサお姉ちゃん。それだけじゃ全然足りないよ」

「え? そうなんすか?」

「あー、うん。ちょっと待ってね。

 えーっと、うーんと......」

 イザベラの助言虚しくヴァネッサは全く理解しておらず、普通の声の大きさで返していた。

 ヴァネッサの返答を受けて彼女の状態を理解したイザベラは一度、こめかみに両手を当てながらウーンと唸りながら考え始めた。

 隊長として私が話したほうが良いのだが、イザベラが頑張っているんだ、ここは見守らねば、と決意を固めた私がしばらく待っていると、イザベラが考えがまとまったのか、椅子に座ったまま身振り手振りを含めてヴァネッサに説明を始める。


「えーっとね。魔獣っていうのはー、こう、体が頭・胸・腹で構成されていて、頭には一対の触角と複眼、胸に三対の脚が付いてて、一見すると虫のように見える生き物みたいなものでね、イザベラたちよりも大きいんだよ」

「じゃあ、でっかい虫なんすか?」

「ううん。虫とは違って額に魔石があるっていうのもあるんだけど、脚が変幻自在で、鋭い鎌になったり槍になったりして襲い掛かってくるの。他には鋏みたいな口から魔力の塊を射出してくるんだよ」

 イザベラは両手で円を作り、それを3つくっつけるような動きをして魔獣の体を表現し、指を使って触角や脚を表現していった。

 イザベラの仕草が可愛い、いやいや、紙と鉛筆くらいは用意しておけばよかったかな、と私が思っている間に、ヴァネッサがイザベラに新しく湧いてきた疑問を聞いては、イザベラが可愛らしく身振り手振りで教えていく。


「はぇー。イーザちゃんは物知りなんすね。

 ところで、なんで魔獣って名前なんすかね?」

「そ、それは......イザベラも分かんない......」

 感心する素振りをしたヴァネッサの新たな疑問にイザベラが言葉を詰まらせて両腕を広げたままピタリと体の動きが止まってしまった。


 ヴァネッサの疑問は分からないでもない。

 魔獣の見た目はほとんど昆虫のようなものだ。では、どうして、魔獣という名前が付けられたのか。

 実を言うと、私も知らないのである。


 第5小隊にいた時に隊員全員に尋ねてみたことがあったが、誰も知らないとのことだった。名前の由来が気にならなかったかと言えば嘘になるが、当時の私は、フィン陸曹長殿の「300年も前からいる生命体の名前の由来なんぞ知っても意味が無い。そういうのは学者の領分だ。俺達は軍人でどうすれば国民を守れるのかを考えて動くことが仕事だ」という言葉を受けて、名前について気にすることを止め、魔獣との戦闘に関する部分を重点的に学ぶようになった。


 私と同様にメリーナやサラーも知らなかったのか、微妙な顔をして皆で静かにしていると、エミリーがイザベラを真っすぐ見ながらゆっくりと喋り始める。


「......本能の赴くまま......まるで獣のよう......だから魔獣って......聞いたことがある......」


 エミリーの言葉を受けて全員が驚いた顔をして彼女の顔を見た。


 本能のまま獣のように、か。なるほど、人間でいう理性が無いことを獣と言い表しているのか。確かに、魔獣は目についた生き物を考え無しに襲うが、群れを統率して動く性質があるからな。名付けた人は賢者様の子孫だろうか?

 フィン陸曹長ですら知らなかったことをエミリーは一体どこで聞いたことがあったのだろうか、もしかして、大隊長殿か補佐官殿から聞いたのか? と私が彼女と初めて会った時のことも含めて考えていると何も知らないイザベラが目を輝かせながらエミリーに話しかける。


「そうだったんだ。エマお姉ちゃん凄ーい!

 じゃあ、魔獣の正体って分かってるの?」

「......それは......まだ......」

 魔獣の正体について聞かれたエミリーは先ほどのイザベラのように言葉を詰まらせてしまった。

 存在が確認されてから300年が経過しているにも関わらず、魔獣の正体については未だ解明されていないので、エミリーが知っているはずがないのである。


 イザベラよ、それを聞くのはさすがに酷じゃないか、と私が申し訳なさそうにしているエミリーに同情していると、彼女の右隣に座るサラーが助勢をすべく会話に介入する。


「ま~、魔獣の研究って難しいからね~」

「なんでなんすか?」

 唐突に会話に参加してきたサラーに少し驚いた顔をしながらヴァネッサが詳細を尋ねた。

 サラーは一度、右手人差し指を顎に当てて考える素振りを見せてから期待をするような目をしているヴァネッサとイザベラに向けてゆっくり話し始める。


「人間を見つけるとすぐに集団で襲い掛かってくるから生きた魔獣をじっくり観察するのは難しいんだよ~。

 魔獣を生きたまま拘束するのも難しいらしいしね~」


 魔獣の知覚能力は私達人間よりもはるかに優れていると言われている。

 技術の進歩により、目視できない場所にいる魔獣を発見できるようになったが、魔獣は今までその距離から正確に人間を見つけては襲い掛かってきていた。

 今まで対処ができていた理由は、魔獣は人間の数倍以上の大きさがあり、目視できる距離から接近してくる魔獣を確認することができていたからだ。

 これらから、魔獣を発見したときは魔獣が接近しているということでもあるため、安全な場所から魔獣の生態について観察することは不可能であると言われている。


 遠目からの観察が無理ならば、捕獲して施設で生態調査を行えば良いのでは、という意見により、何度か魔獣が捕獲されてきたが、ことごとく失敗している。

 その理由をサラーではなくメリーナが話し始める。


「魔獣には自身の魔力以外の魔力を一切通さない障壁のようなものが常に張られていますから魔力的な攻撃はもちろん、魔力的な働きをする魔術具も一切通用しないと言われていますわ」


 魔獣を捕獲するための拘束系の魔術具を使えるようにすべく、魔力障壁を無効化する魔術具の開発が一時期行われていたが、無効化するためには魔力に干渉しなければならず、結局のところ不可能と判断された、という話がある。

 そこで、脚を全て斬り、口を潰して戦闘不能状態にし、生きたまま施設に運んでしまおうという計画が出されたが、これも失敗する。


「それに、戦闘不能にして捕獲してもいずれ復活しますし、建物や軍用車両を破壊するほどの攻撃力のある魔獣を閉じ込めておく檻を用意するなんて不可能ですわ」


 魔獣には修復能力があり、戦闘不能になっても魔石が無事である限り、時間をかけて何度でも傷を修復し復活する。

 たとえ、魔獣の攻撃で数回は耐えられたとしても、攻撃は魔獣が死なない限り何度も繰り出されるため、どんなに丈夫な檻を作ったところで破壊されてしまうので意味が無い。

 魔獣の修復を妨害しながら研究をするという案があったが、研究中はただただ武器が損耗していくだけであり、何度も修復されては削り取るという作業を行われては満足に研究することができないとのことで却下された。


 ある程度簡潔に話したメリーナの説明を聞いたヴァネッサが腕を組み、目を閉じて何度か頷きながら納得したかのように口を開く。


「確かに、それはそうっすね」

「ですが、魔獣との戦闘情報や魔獣の死骸から正体が分からなくとも、ある程度の研究成果が出ていますのよ」

「え、そうなんすか?」

 そんなヴァネッサにメリーナが少し笑みを含ませて話すと、ヴァネッサはその場で固まって目を丸くした。


 皇国では魔石や外殻などの魔獣の素材の研究を行い、その成果を軍事だけでなく国民の生活に役立てている。

 魔石を長い期間かけて研究した結果、魔獣から魔石を抜き取っても魔石は壊れるまで永久に魔力を生み出し続けることが判明している。これの性質を使い、永久に魔力を供給し続ける施設を作り、一般家庭の飲み水や灯り、調理用の火などの家事用魔術具をいつでも使えるようにしたり、公共輸送車両の燃料にしたりと国民の生活水準の向上の一助を担っている。


 といった具合に数ある研究成果があるなかで、メリーナはヴァネッサが理解しやすい戦闘に関するものを彼女に話していく。


「まず当たり前なことを言いますと、魔獣には物理的な攻撃がそれなりに効くことが判明していますわ。それに、今あたし達が着ている軍服には魔獣の魔力障壁能力を疑似的に再現した機能が備え付けられているのでしてよ?」


 魔獣に魔力を無効化する魔力障壁があるのならば、魔力以外の攻撃、例えば物理攻撃はどの程度効くのか、という研究がなされ、現在の段階では、物理攻撃を無効にするような能力は持たないが、種類によってある程度は軽減する能力を持つことが判明している。

 軍服については、魔力障壁の無力化のための研究をした際に、偶然、原理を発見したものらしく、本来は魔石から供給される魔力によって生成される障壁を着用者の魔力で発生させる技術を開発したらしい。


「そうだったんすか! じゃあ、これさえあれば俺ら無敵じゃないっすか! 殺し放題じゃないっすか!

 ......あれ? なんで、みんなガツガツ攻撃しないんすかね?」

 ヴァネッサは自分が着ている軍服の左袖を右手でつまみながら嬉しそうに言い、そして、不思議そうに首をかしげた。

 それを聞いたメリーナが少しため息を吐いてから説き伏せるように言う。


「そうもいきませんわ。再現と言っても完全ではありませんのよ?

 魔力攻撃を無効化できたとしても攻撃による衝撃は消せませんし、衝撃を受けてしまえばあたし達は簡単に吹き飛ばされてしまいますの。先ほど言いましたが、物理攻撃は防げませんからその時に当たり所が悪ければ普通に怪我をしますし、最悪の場合死んでしまいますわ。

 他にも......」


 魔獣の魔力障壁は魔力を完全に無効化し、衝撃を一切受けないのに対し、軍服は魔力を無効化できるが衝撃はそのまま伝わってしまう。なので、魔獣の魔力攻撃を防御や受け身無しで受けてしまうと怪我をする可能性が高くなる。

 補足をしておくと、重要な生産施設や拠点、軍用車両には魔石を原動力とした完全な魔力障壁を生成できる機能が備わっており、軍服は、魔石なしでも生成できるよう改良された結果なのであって技術的に劣っているわけではない、むしろ、最先端技術の粋を結して作られた代物である。

 さらに、軍服には既存の技術により防刃機能が付いており、魔獣の鎌状の脚による斬撃攻撃を防ぐことができる。だが、槍状態から繰り出される刺突攻撃は防げず貫通してしまい、その対策が未だになされていない。


 様々な技術を集めて作られた軍服は当然ながら貴重であり、状態が良ければ闇取引では1着で数年分の食費が賄える規模で取引されている。

 そのため、現役軍人には予備を含めて2着しか与えられず、追加を発注するときは大隊長殿へ事情を説明せねばならず、基本給から引かれる。

 そして、戦死してしまった場合に軍服の処分をどうするかを遺品とは別に軍に在籍している間に大隊長殿に書類に書いて提出しておかなければならない。


 普通は遺族に渡るようにするが、いない場合には見返り無く軍に返したり、軍に売って所属する小隊の誰かまたは全員に配分するようにしたりする人もいる。

 ちなみに、私や他の隊員たちは軍服を小隊に配分するようにしている。

 そういえば、私がまだ孤児院にいた頃はユリアお姉ちゃんとラウラお姉ちゃんの軍服を先生が売らずに大事に仕舞っていたっけな。


 結局、すべて無くなってしまったが、と私が昔の思い出に浸ってしまっている間に、メリーナは大分話をしていたらしい。

 話をすべて聞き終えたヴァネッサは顎に右手の握りこぶしを当てて頷きながら深刻そうな顔をして感想を述べていく。


「ふむふむ。なるほど。上手くいかないもんなんすね。

 まあでも、攻撃は当たらなければどうということは無いっすから大丈夫っすよ」

 ヴァネッサの感想を聞いたメリーナが残念なものを見る目で彼女を見た。


 ヴァネッサは彼女自身が深くかかわる戦闘に関する知識くらいしか頭に入れる気が無いのが困りどころである。さらに言えば、知識を知らなくても感覚で魔獣を倒せてしまうほど才能が優れているので、本人は学ぶ気持ちがあっても無意識に知識を蔑ろにしている節がある。

 先ほど話した内容は普通に軍から支給される教材の内容でもあり、昇級試験の内容でもあるので、彼女の将来が少々心配である。


 ヴァネッサへの勉強の機会はまた別にして、とりあえずは十分魔獣に関する知識のすり合わせができたな、と判断した私は話題を変えるべく皆にきちんと聞こえるような声で話し始める。


「ある程度魔獣について分かったところで、話を少し変えよう。

 魔獣との戦闘で注意すべきことは分かる――」

「周囲に気を付けて戦うことっす!」

「そ、それはそうなんだが、もう少し詳しく掘り下げて欲しいところだな」

 私が言い切る前にまたしてもヴァネッサが元気良く右手を上げながら簡潔に一言を告げた。

 それは普段から私が口を酸っぱくして皆、特にヴァネッサに言っていることであるのだが、できればその理由についても一緒に言ってほしかったな、と私が若干遠い眼をしながらヴァネッサにもう少し詳しく話すように促した。

 私の言葉を受けてヴァネッサは即座に答える。


「理由は、魔石を潰すと爆発するから、周囲に誰もいないことを確認する必要があるっす!

 たしか、安全確認を済ませてから魔石を潰すんすよね?」

「その手順は魔石の破壊に関してでしょう? 理由になっていませんわ。

 それに、それは最終手段でしてよ?」

 ヴァネッサの回答にメリーナが呆れながら反応した。


 魔石を破壊すれば魔獣は死ぬのだが、その際に、魔石の内部に溜め込まれた魔力が一気に拡散され周囲に衝撃波を放つ魔力爆発が起こる。

 そのため、魔石を破壊する方法は隊員個人の判断ではなく、小隊長の判断によって行われる。もし、緊急時以外に行い、その際に少しでも民間人に被害が出てしまうと小隊全員の責任になる。


 理由として合ってはいないが、魔石破壊の手順は間違っていないので、どうしたものか、私が悩んでいると、ヴァネッサがメリーナに反論するかのように話し始める。


「じゃあ会敵後、速攻で首を刎ねるっす。首と胴体を切り離せば死ぬんすよね、たしか?」

 ヴァネッサはさも当たり前のように言い放つと、皆が沈黙してしまった。


 ヴァネッサの言う通り、魔獣は頭を切り離せば死ぬ。

 原理について私は詳しく知らないのだが、おそらく、胴体に心臓のようなものがあり、魔石の魔力では頭部のみの状態から回復することはできないのだろう。

 ただ、頭を斬り落とせば良いとはいっても、簡単にはいかない。


「そんなことできるのサラーお姉ちゃんとヴァネッサお姉ちゃんだけだよ。イザベラ、まだ訓練でも正確な狙撃も射撃も格闘もできないのに」

 イザベラが少々不貞腐れたように頬を膨らませながらヴァネッサに文句を言った。


 イザベラの言う通り、この小隊で魔獣の首を落とせるのは狙撃手であるサラーと近接戦最強のヴァネッサだけである。

 ただ、サラーの場合は魔獣が側面または背面を見せていないと接続部分を狙えず、手動装填の狙撃銃(スナイパーライフル)であるため、連射ができず、即殺できる機会はその戦闘時に置いてあまりないので彼女に頼り切りになるのはあまりよろしくない。

 サラー曰く、自身が動き回り、多少の援護があれば隙を狙うことができるらしいのだが、狙撃銃の弾はそれなりに貴重であり、普段から支給されている弾数は2挺分であるため、私は万が一のために無暗に撃ってほしくないと思っており、彼女は弾拾いが面倒だから緊急時や援護以外にあまり撃ちたくないと思っている。


 ヴァネッサの場合は2挺の回転式大型拳銃(マグナムリボルバー)と2丁の戦闘用小刀を使い分け、魔獣に隙があればそのまま接近して一刀で斬り飛ばしたり、それ以外では攻撃を全て回避して接近し、付け根付近に弾丸を数発撃ち込んだりして魔獣を倒すのだが、周辺の被害や弾数、武器の損耗を一切考えずに行うため、いつも私はヒヤヒヤしながら彼女の援護を行っている。

 ちなみに、ヴァネッサは銃器全般の命中精度が第13小隊内で最も低く、唯一まともに使用できるものは拳銃で、近接格闘の距離でやっと当てられるほどである。


「頑張ればできるようになるっすよ。大丈夫っす」

「イーザは銃器や車両だけじゃなく、色んな魔術具を上手に扱える才能があるっぽいからね~。

 格闘や狙撃よりまずは射撃の腕を磨いたほうが良いかもね~。あとは、どれを完璧にするか一つに絞ったほうが良いと思うよ~」

「うーん」

 いじけるイザベラにヴァネッサが右手でイザベラの頭を撫でながら慰め、サラーが助言をするが、イザベラはまだ不服そうだった。


 イザベラはすべての銃器を扱える物凄い才能を持っている。

 私は展開式大盾と短機関銃(サブマシンガン)と小刀を、メリーナは小盾と銃剣突撃銃(アサルトライフル)を、エミリーは短機関銃と小刀を使用するが、イザベラは拳銃(ハンドガン)小銃(ライフル)機関銃(マシンガン)など様々な銃を扱えるだけでなく、整備をすることもできる。

 さらに、理由は全く分からないが、イザベラと組手を行うと時々、未来予知のような先読みをしてくる。まあ、格闘自体はあまり得意ではなさそうだが。

 それと、イザベラが運転する車両は走行中、かなり安定するのである。ちなみに、ヴァネッサの運転は、まあ、その、車内がかなり荒れる。


「でも、イザベラ、いろんなことができるようになりたいな。

 そうすれば、お姉ちゃんたちをいっぱいお手伝いできるでしょ?」

「......私だって......やればできる......もん......イーザは......私が......守る......」

 イザベラがサラーの助言を聞いた上で自分の考えを述べると、それに対抗してエミリーもやる気を見せてきた。


 イザベラの気持ちは大変嬉しいのだが、最近の彼女は言葉通り、なんでもできるようになるべく、少々無茶をし、エミリーもそれに合わせているように見えるので、かなり心配である。

 一人で訓練はせず、空いている小隊の誰かと行ってはいるものの、暇な時間を見つけては常にエミリーと訓練を行っているので、小隊の皆は心配に思い、一時期、私がイザベラやエミリーに忠告したのだが、言うことを聞いてくれなかった。

 私自身も、昔に無茶な訓練をやっていたことがあるため、イザベラとエミリーを強く止めることができず、必ず他の誰かと訓練をすることと、その人の言うことを必ず聞くこと、エミリーはイザベラの身体の状態を常に気にするようにすることで手を打ってもらった。


 本音を言えば、まだ13歳であるエミリーとイザベラは戦闘には積極的に参加せず、通信手と運転手に集中してほしさがあるが、イザベラのやる気や、エミリーのイザベラを守りたいという気持ちを蔑ろにはできない。

 はぁ、私は一体どうすればいいんだ、と私が無意識に右手の握りこぶしを顎に当てて悩んでいると、メリーナが右手を上げながら私に向けて恐る恐るといった風に話しかけてくる。


「あ、あの、隊長。皆のお話があらぬ方向へ......」

「あ、ああ、度々すまないな」

 どうも、皆のことを考えるようとすると、のめりこみ過ぎてしまうな。話の方向を正すことを放り投げてまで考え込んでしまうとは。しっかりせねば。

 はてさて、これ以上話をしてもヴァネッサが正解にたどり着けそうもないから少し話を変えてみようか、と考えた私は水を一口飲んで喉を潤し、手をパンッと一度叩いて全員の会話を強制的に止めてから内容を整理しながら話し始めた。

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