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大規模作戦に向けて

「これから話すことは確定情報であるが、一応、作戦に関わることだから情報漏洩防止のため不必要に口外はしないようにな」

「はーい!」

 私の言葉にイザベラのみが元気よく右手を上げながら答える。ちなみに、他の隊員は軽く頷くだけであった。

 ああ、うん、ちゃんと聞いているという態度はよく分かったから、その、できれば静かに頷いてくれた方が助かるのだがな、と私が思っていると、イザベラを見て我慢できなくなったのかサラーが両手を後頭部辺りで組み椅子の背もたれにもたれかかりながら少しとげとげしく意見を言い放つ。


「別に話したっていいんじゃない? 話す相手がいればだけどさ~。どうせ僕らは後方支援か待機なんだし~。僕らの言動から情報が筒抜けになるとは思えないよ~。それに~、僕らが何してようが突っかかってくる馬鹿はいるんだからさ~」

 サラー、言いたいことは分かるが振る舞いにはもう少し気を付けてくれ、と私はサラーの影響を若干受けつつあるヴァネッサやイザベラのことを思いながらサラーを注意しようとするが、私よりも先にメリーナが口を開く。


「サラー、あなたね――」

「はいはいごめんごめ~ん。分かってますよ~」

 メリーナがサラーの態度や言葉などを注意しようとしたが、サラーはそれよりも早くに謝罪をして姿勢を正した。

 すぐ謝り、己でちゃんと正すことができるところがサラーの良いところではあるのだが、問題を起こさないようにすることが彼女は苦手なんだよな、と私はどうしたものかと悩みつつ作戦内容について話をしていく。


「はぁ、話を続けるぞ。

 今回の大規模作戦、明確な期間は不明だが、大雑把に見積もって第1段階で1週間、第2段階で1週間、第3段階で2週間という予定だ」


 大規模作戦は大きく分けると3つに構成される。

 第1段階は駐屯地建設予定地の確保と周辺の魔獣討伐による安全確保、第2段階は駐屯地建設用の簡易施設の建設とその資材搬入、周辺の警備、第3段階は新駐屯地建設とその資材搬入、警備、旧駐屯地からの補給線の維持となっている。


「第1段階での私達第13小隊は第3小隊と第5小隊と中隊を組み、本隊が前線で戦闘中、国境付近で待機だ。その際に多くの物資や車両を防衛する必要がある」

「......チッ。アレがいるのかよ」

「要は荷物番ってことっすか?」

 ヴァネッサが右手を上げながら純真無垢な声で質問をした。

 嗚呼、早速ヴァネッサが影響を受けてしまったか。軍からの命令内容を荷物番と言ってしまうのは流石によろしくない。だが、矯正するというのもな。

 と、私が内心でサラーによる影響について悩み、対策方法を考えているとメリーナが慌てた様子でヴァネッサを窘める。


「ちょ、ヴァネッサ、言葉を選びなさいな」

「うえぇ? 何か不味かったっすか?」

 ヴァネッサは心の底から分かっていないようでメリーナを見ながらコテンと首を右へ傾けた。

 時と場合で振る舞いを上手く使い分けられるようになってほしいものだが、いかんせん、私が未熟なばかりに上手くいかないな。

 いや、慌てず少しずつじっくり教えていけばいいんだ、と考えた私はヴァネッサを否定しないよう気を付けて言葉を選びながら話す。


「ま、まあ、簡単に言えばそうなんだが、できれば見張り番と言ってほしいところではある。それと、ただ物資を見張って守っていればいいということではないぞ。

 国境付近の警戒もしないといけない。特に、注意すべきは本隊との戦闘から逃げだした魔獣の対処だな」

「おお! ということは普段と違って魔獣をぶっ殺せる機会が多いってことっすね!

 ......はははっ! 殺せる! アイツらを! アイツの為に! 俺が1匹残らず必ず殺す! 殺す! あっはははっ!」

 今まで真面目な顔をして話を聞いていたヴァネッサが魔獣の対処という言葉を聞いて目を輝かせて興奮し、勢いよくダンッと音を立てて立ち上がりながら私に確認を取ってきたかと思いきや、その場に顔を両手で覆いながら心の底から嬉しそうに大声で笑い始めた。

 立つときに手を強く卓に叩きつけた衝撃で近くにあったヴァネッサの容器が倒れたが、中身は入っていなかったので卓が少し濡れる程度で済んだ。


 ヴァネッサの悪い癖が出てしまったな、と私はメリーナに卓を拭くよう視線で合図をしてから興奮するヴァネッサに少し圧をかけるように話しかける。


「ヴァネッサ。落ち着け。まずは座ってくれ」

「あぁ? ......ごめんなさいっす。

 あ、ふくちょーもごめんなさいっす。あと、ありがとうっす」

「いえ、気にしなくて大丈夫ですわ」

 正気に戻ったヴァネッサが私に謝罪をしてから椅子に座り、布巾で卓を拭き、倒れた容器を戻したメリーナに謝罪と感謝の言葉を言った。


 ヴァネッサは魔獣関連、特に魔獣を殺せるかどうかという話や魔獣との戦闘時になると性格が大きく変わる。その時になると必ず“アイツの為に魔獣を殺す”というようなことを言うのでおそらく、彼女の過去と何らかの関係があるのだろうというのは分かっていることだが、それ以上は本人しか知らないことである。本人が話さないことに私がとやかく言うことは無い。私自身、そういうことがあるので。

 それに、ヴァネッサがこの小隊に入ったばかりの頃は色々と大変だったが、今では落ち着かせることができているので特に大きな問題は起きていない。少し彼女から文句が飛んでくるくらいだ。

 ちなみに、初めてヴァネッサの変わりようを見た時のエミリーは特に何も反応はなく、イザベラは少し泣いてしまったが今は少し驚くくらいだ。


 ヴァネッサはこの小隊の中で最も近接戦闘の才能があるから、彼女の暴走を上手く制御しないと大変なことになることは分かっているが、彼女を見捨てることなんてできない、と私は当時を思い出しながらすっかり落ち着いたヴァネッサを一瞥してから話を続ける。


「続けるぞ。先にも言ったが、魔獣の対処には注意すべきことがある。それは、物資集積所付近で魔獣と戦闘になった場合だ。物資や車両に魔獣の攻撃や我々の流れ弾が当たらないように動かなければならない」


 車両は皇国において物凄く高価な物である。なので、そんなものを魔獣との戦闘に使うな、という国民の声が定期的に上がる。だが、実際に車両が有るか無いかで魔獣との戦闘が大きく変わるので車両は軍にとって必要不可欠だ。


 身体強化で走れば車両とほぼ同じ速度で走れるが、そこに至るまでにはそれなりの鍛錬が必要であり、目的地に着くころには肉体的疲労によりすぐに戦闘を行える状態ではなくなる。

 そのため、哨戒任務時に駐屯地から任務場所までは小隊全員で1つの車両に乗り込んで向かい、任務中も魔獣を発見するまでは走る車両の中で待機をするようになっている。


 これらの事情から、現在の軍用車両には物資輸送用と小隊支援用の2種類の車両がある。

 輸送車両は特筆すべきことが無いので省かせてもらう。

 支援車両には小隊以外に武器や医薬品などの軍需品、さらには魔獣の魔石や素材などの戦利品を一緒に運ぶ必要があるため、少々造りが変わっている。他にも、戦闘時に駐屯地と小隊、さらには他小隊との通信の中継を担うための装置や魔獣を見つけるための各種探知機などが搭載されている。


 軍用車両は普通車両と違い、装甲が厚く、魔獣の攻撃や流れ弾で簡単に壊れることは無いとはいえ限度はある、過信するのは良くない、と思いながら私は最も注意すべきことを話していく。


「それと、分かっていると思うが、魔獣を見逃せば手薄になった皇国南部が危険にさらされる。後方で支援や待機とはいっても気は抜けないぞ」

 軍が逃した魔獣によって被害に遭った町や人々の数は計り知れない。私が知っている範囲だと、私の出身地である孤児院やヴァネッサの両親、イザベラ本人が魔獣による被害を受けている。そして、この中で運良く生き残ったのはイザベラだけである。

 それだけ民間人には魔獣に対抗する術がない。身体強化は鍛錬や実戦を繰り返さなければ使いこなすことが難しいのと、民間人に対魔獣用の銃を持たせることは治安上許可できないため軍がなんとしてでも国民を守らなければならない。なので、魔獣被害が出るたびに国民から軍に対する不満の声が上がっていることは軍内部では常識だ。


 だが、私は私の隊員を最優先で守りたいと考えている。


「......できれば交戦は避けたいのだがな」

 日ごろから鍛錬や勉強に励み、哨戒任務に何度も出て経験を積んでいるとはいえ、大掛かりな作戦に参加するには隊員達や自分はまだまだ未熟であるという思いがあり、かなりの不安を感じている。隊の皆が無事でここに帰ってこられるよう私は話を終えると小声で魔獣と遭遇しないことを祈っていた。

 話し終わった私がしばらく無言でいると、サラーが右手をヒラヒラとさせながら私に尋ねてくる。


「ところでさ~。中隊の隊長って誰になるの~?」

「あ、ああ、それはだな。第5小隊の隊長が務めることになっている」

 いかんいかん、今は皆が生きて帰るため、作戦についての話に集中しなければ、と私はハッとして話すべきことを話していく。


「中隊全体も第5小隊が中心になって動くことになるだろう」

「第5小隊ってエレナお姉ちゃんが昔いたところなんだよね?」

 第5小隊という言葉を聞いてイザベラが右手を上げて私に尋ねてきた。


 第13小隊ができる前、私が軍に入隊したときに配属されたのが第5小隊である。

 配属理由が私の保有魔力量が極端に少ないからということと第5小隊は魔力量が平均以下の人間で構成される小隊であるという理由だ。

 中々な理由だったが、私があの小隊に配属されたのはある種の幸運だと思うほど、第5小隊は居心地がよかった。

 そういえば、私が第13小隊の隊長に任命されてから第5小隊の隊長とは一度も会っていなかったな。


 そんなことを思い出しつつ私はイザベラに答える。


「ああそうだよ。あそこの小隊長であるフィン陸曹長殿は私が尊敬する軍人の一人だ。

 それに、他隊員の方々にもかなりお世話になってな」

 第5小隊にいた頃は、隊長であるフィン陸曹長以外に副隊長であるザブリナ陸軍曹や多くの方々に面倒を見てもらった。

 同小隊のダニエル上等陸兵殿やジェシカ上等陸兵殿は隊の中で年齢や階級が一番下だったが、私が配属されたことで上官で年上になれたことがよほど嬉しかったのか、よく私のことを妹扱いしていた。


 最初はユリアお姉ちゃんやラウラお姉ちゃん以外の人に妹扱いされるのが恥ずかしくて受け入れるのに時間が掛かったが、なんとか受け入れられるようになったころには小隊全員が私のことを妹扱いしてきたのにはさすがに困惑した。

 私が第13小隊の隊長になった後も、駐屯地内や任務などで第5小隊と一緒になることがあり、その都度、私の隊員がいる前でもお構いなしに私を妹扱いしてくるので勘弁してほしいところではある。


 そういえば、私も自分の隊員たちを妹扱いしてしまっているが、皆はどう思っているのだろうか?


 と私が少し昔のことと、ふと頭に浮かんできたことを思っているとサラーが思い出したように話す。


「僕もあの人たちには少しお世話になったな~」

「じゃあ安心だね」

 そういえば、私が第13小隊に転属されてから当時民間人だったサラーは第6小隊が起こした横流し事件に巻き込まれて、その際に第5小隊に保護されていたと聞いたな。

 と、私が思い出しているとイザベラが安心したような顔をして頷いていた。

 そこへ、サラーが不服そうな顔をして話す。


「でもさ~。第3小隊がいるんでしょ~。大丈夫なの~?」

 サラーの心配はよく分かる。

 実際、第5小隊時代でも第3小隊に何度か突っかかれたことはあるし、サラーが第3小隊にいた頃に巻き込まれた事件は大隊内では有名な話だ。


 それに、第3小隊は実力主義を謳い、同じ大隊に所属する小隊を勝手に格付けしては格下と決めつけた小隊の指示には従わないというかなり困ったことを行っている。

 一応、大隊長殿の命令には従うのだが、命令内容を拡大解釈して行動するので大隊長でも処分に困っているそうだ。そのうえ、隊員に陸将の子息がいる。

 さらに言えば、魔獣を確実に殲滅し、第3小隊が任務中に一度たりとも魔獣を逃して国民に被害を出したことがないという実績があるので誰も文句が言えない。


 だから、今回の3個小隊による後方支援が円滑に行えるかどうか心配になるという気持ちは私も同じである。

 そう思いながら私は少し心配そうに見ているイザベラを一瞥してからサラーに言う。


「サラーの心配は分かるが、私達にはどうしようもないことだ。

 多分、フィン陸曹長殿が何とかしてくれるかもしれないが......」

「ふ~ん。まあ、その日その時にならないと分からないからね~。

 ......何かあればどさくさに紛れて殺せばいいんだし」

「それに、私達は待機になるかもしれないからな」

 フィン陸曹長殿なら今までに何度か第3小隊を止めたり誘導したりしてきた実績があるので、彼ならなんとかしてくれるかもしれない、という他力本願な期待を抱きつつ私は、第3小隊が私の隊員に突っかかってこないようにしないと、と決意を固めた。

 そして、未だに不安がっているイザベラを安心させるべく私は第3小隊の動きを予想して自分達がどう動くことになりそうかを伝えた。


「ええー!? あっ、ごめんなさいっす......」

 すると、さっきまで落ち着いて話を聞いていたヴァネッサが口を開きながら勢いよく立ち上がりかけて途中で止まって突然私に謝罪をした。

 そして、ゆっくり座りなおすが、まだ不満があるのだろう、容器を倒さない程度の力加減で両手の握りこぶしを卓の上に何度も叩きつけながら再び口を開く。


「待機ってことは魔獣ぶっ殺せないんすか?!」

 普段よりも多くの魔獣が殺せるかもしれないという期待をさせておいて実際は待機になる可能性が高いと話すのは、少しヴァネッサには申し訳ないことをしてしまったな、だが、こればかりはどうしようもない、さて、どう説明したものか、と私が考えている間にサラーがヴァネッサに説明していく。


「ま~、第3小隊の性格を考えたら間違いなく荷物番なんかせずに魔獣を探しに行くだろうからね~。

 それに、中隊の中枢を担う第5小隊も奴らを放ってはおけないだろうし、色々と面倒を見るために出ざるをえず、僕らが尻拭いで荷物番をさせられる感じかな~?」

「はー。なるほど」

 サラーの話を聞いて納得したらしいヴァネッサは卓の上に叩きつけていた両手握りこぶしをそっと静かに両ひざの上に置いた。

 サラーの言葉はともかく、説明内容は簡潔であり、とても分かりやすかった。


 普通なら第5小隊が集積所に残って全体の指揮を取り、第3小隊と第13小隊が第5小隊の指揮のもと、左右に広がりながら索敵をした方が効率的だと思うのだが、それでは間違いなく第3小隊は言う通りに動かないだろう。


 第3小隊は魔力量が平均より多い人間で構成されている。おそらく、大隊で最も魔力量が多い小隊だろう。故に、どの小隊よりも長時間活動することができ、その結果、多くの魔獣を討伐することに成功している。

 普通に考えれば十分に凄いのだが、当人たちは空を飛ぶほどの魔力が無いことに不満を抱いているらしく、さらに言えば、彼らが一番気にしていることらしい。迂闊に話せば何をされるか分からないほどだ。


 そういえば、これは第3小隊にいた時のサラーから愚痴をこぼすかのように聞かされた話だったな、とサラーとの出会いを思い出しつつ私は左側にいるサラーを見てから右側にいるヴァネッサを見て、そして、ヴァネッサに向かって話す。


「もう少し言葉を選んでほしいところではあるが、大体サラーの言う通りになるだろうと私は思っている。だが、これはあくまで個人的な予想だ。具体的な指示内容は当日にフィン陸曹長殿からくるだろう」

「ふんふん。当日なんすね」

 私の言葉を聞いてヴァネッサはウンウンと頷いた。

 ヴァネッサが理解しているのかは私には分からないが、理解していると判断して私は話の続きをする。


「ああ。最近の第5小隊は任務続きでな。ゆっくり作戦会議をする暇がないみたいらしいんだ」

「はぇー。大変なんすねー、色々と」

 ヴァネッサは腕を組みながらさらにウンウンと頷いた。

 ヴァネッサは知らないことなのだが、大規模作戦の決行が上層部から下ったときから第5小隊はほとんど毎日それ関連の任務が大隊長殿から与えられていた。


 今回の作戦内容から戦場は国境を越えた森の中であるため、まずは、国境付近の森から車両が通れる道を確保しなければならない。

 だが、安易に道を作ってしまうと魔獣が逆に利用してくることがあるかもしれないので、なるべく、自然な状態で車両が通れそうな道や場所を探し、見つからなければ木々を倒して最低限の道を作らなければならない。

 さらに言えば、国境付近の物資集積所分も確保しなくてはならなく、魔獣を避けながら作業をしなければならないため、この任務は特別休暇や給金がもらえるとはいえ、かなり酷であると誰でも想像することができる。


 前に食堂でたまたま特別休暇を貰っていたジェシカ上等陸兵殿に会った時に愚痴を聞かされたが中々に大変な状況らしい。

 一応、道はすでに出来上がっており、第1小隊と第2小隊が何度か確認作業を慎重に行っている段階だ。

 そして、決行予定日前までに問題が起こらなければ、予定通り1週間後に作戦が決行される。


 今回の作戦、かなり厳しいものではあるが、なんとか成功してほしいな、と願いつつ私はヴァネッサに伝えたいことを伝える。


「そうだな。

 一応、絶対に戦闘が起きないわけではないから、準備だけは怠らないようにな」

「はいっす! 頑張るっすよ!」

 ヴァネッサは今日一番の笑顔で元気よく答え、両手の握りこぶしを胸のあたりまで上げてフンスッと鼻息を荒くしていた。

 ヴァネッサは相変わらず元気だな、彼女を見ているとこっちも元気になるよ、と私がホッコリしていると、メリーナが申し訳なさそうに右手を上げながら話しかけてくる。


「エレナ隊長、あの、お話の続きを」

「あ、ああ、すまない。

 分かっている範囲で決行日の話をしないとな」

 いかんいかん、大分話が逸れてしまった、と私は反省しつつ決行日の朝の話をする。


「まず、朝行われる出陣式に私達は参列しない」

「式に参列しないんですの? それは大隊長命令でして?」

「ああ、そうだ。この書類に書かれている。

 詳しい理由までは書かれていないが、おそらく、私達のことを慮ってくださったのであろうと私は思っている」

 メリーナが少々不服そうな顔をしていたが、こればかりはしょうがない。

 詳しい理由はなんとなく分かっているのだが、その内容を口外するのはあまりよろしくないと判断した私は言葉を選びながらメリーナに説明していった。

 だが、私の努力を無に帰すかのようにサラーが言ってしまう。


「そりゃ~、僕らが出たら間違いなくその場に参列してる色んな小隊から文句が飛んできて式どころじゃなくなるからね~。大隊長さんが僕らに出るなって言う気持ちは分かるよ~」

「サラー、できれば大隊内の問題を隠さずに言うのはやめてほしいのだが」

 実際、要らぬ面倒を起こさないようにするというのは間違いないのだろうが、それを包み隠さずに言ってしまっては大隊長殿に申し訳が立たない。

 サラーは分かりやすくかみ砕いて話すことができるのだが、少々言い過ぎるきらいがある。どうしたものか、と私が心の中で頭を抱えていると、今まで静かにして聞いていたエミリーが右手を控えめに上げながら話しかけてくる。


「隊長......その間......私達は......積み込み?」

「そうだ。エミリーの言う通り私達は式が行われている間に物資の確認と各輸送車両への積み込み作業を非戦闘員である職員の方々とともに行う」

 今回の作戦の最終目的が駐屯地を建設することなので仮設設備や簡易天幕などを含めると、物資の量はかなりのものとなることが予想される。なので、積み込み作業にかかる時間を考えれば、私達は式に参列せず、身体強化を駆使して作業をしていた方が効率的だと判断されたのかもしれない。

 私がそう思っていると、メリーナが首をかしげながら右手を上げて私に質問してくる。


「あたしたちだけですの? 物資の積み込み作業はたしか、職員以外に2個小隊以上で行わなければならないのではなくて?」

「そこは大丈夫。第5小隊から何人かが作業に加わる予定だ」

「なんと言いますか、その、第5小隊の方々には頭が上がりませんわね」

 第5小隊が加わるという言葉を聞いたメリーナは少し申し訳なさそうに呟いた。


 物資の積み込み作業は身体強化を使えば私達程度の人数でも十分に間に合う。

 だが、何故、2個小隊以上で行わなければならないのかというと、過去に起きた、第6小隊による物資の横流し事件があったからだ。

 詳しい話は割愛させてもらうが、あれ以来、出撃前の物資の積み込み作業は職員のみならず、必ず2個小隊以上でそれぞれ確認を取り合いながら行わなければならないという規則が新たに設けられた。


 作業には第5小隊が加わると書類に書いてあり、大隊長殿の命令ではあるのだが、今回の作戦で彼らをかなり酷使しているように思えてしまう。

 積み込み作業は確認だけしてもらってすべて私達でやってしまおう、と彼らの負担を少しでも和らげようと思った私は気を取り直して作業後の話をする。


「物資搬入後は私達が使う武器と中型支援車両の点検、医薬品やその他道具類の確認をし、私とメリーナは中型輸送車両を運転、残りは支援車両に乗ってくれ。運転手は――」

「はいはい! イザベラがやる!」

「じゃあ......私が......助手席に......」

 ある程度の話をし、私達が使う中型支援車両の運転手について私が指示を出そうとするとイザベラが勢いよく右手を上げながら立ち上がって立候補し、少し後にエミリーも静かに立ち上がりながら助手席に座ることを立候補した。


 一応、念のために言っておくと、イザベラはまだ13歳という皇国において未成年ではあるが、軍が発行している運転免許証を持っている。

 軍では車両の大きさ問わず運転免許証の取得機会が所属する全軍人に与えられており、取得方法は、特定の大きさの車両の免許証を取得している上官の付き添いで軍が定める講習をすべて終えることという至って簡単な方法である。

 さらに、大型車両の免許を取得し、取得してから10年以上経過した状態で除隊し、その時に大隊長殿から許可をもらえると、国から特別な運転免許証を交付してもらえ、国営の公共輸送機関の運転手に就くことができるようになる。


 補足しておくと、免許を所有している者が、軍用車両で事故を起こした場合は運転手のみならず、免許取得時に付き添った上官にも罰則が及ぶ。

 私達、第13小隊全員は中型車両限定だが、運転免許証を持っており、私は第5小隊時代に取得したが、隊員全員は私が付き添って取得した。


 もう一つ話をすると、支援車両の助手席に座る者は小隊の通信手を担当することになる。

 支援車両の助手席側に通信機器や探知機器などが多く積まれており、助手席に座っている者は車両が走行中だろうが停車中だろうが常に確認をし、同隊員や他小隊へ情報共有をしなければならない。

 ちなみに、通信手が多忙な状況になった場合は運転手が通信手の補助に徹することもある。


 イザベラが免許証を取得して以来は私達の支援車両はイザベラが運転をし、エミリーが助手席に座ることがよく見る光景となった。

 私は最初からイザベラに運転手を任せようと思っていたのだが、それを言うのは野暮だなと思い、イザベラとエミリー、サラー、ヴァネッサを見ながら話す。


「分かった。運転手はイザベラに、通信手はエミリーに任せる。

 残りの大型輸送車両を第5小隊が引き受けるから私達は彼らの後ろにつく。イザベラ、くれぐれも前に出過ぎないようにな。エミリーもイザベラをしっかり支えてやってくれ。もちろん、サラーとヴァネッサもな、頼んだぞ」

「うん! まかせて!」

「まかせて......」

「遠距離攻撃なら任せてよね~」

「魔獣が出たら俺に任せてほしいっすよ!」

 イザベラが先ほどのヴァネッサのように両手の握りこぶしを胸あたりまで上げつつ鼻息を荒くし、エミリーが無表情ながら少し恥ずかしそうにイザベラの真似をし、サラーが右手をだらしなくヒラヒラと振り、やる気は無いが頼もしさは感じる声で答え、ヴァネッサはイザベラに負けないほどの意気込みで鼻息を荒くしていた。

 そんな彼女たちを見た私は一度メリーナと顔を合わせてお互いに笑みをこぼしあい、全員を見渡しながら次の話を始める。


「第2、第3段階についての話は後日にする予定だ。

 ......よし、作戦内容の話を終えたから、座学をしよう」

「「「「「はい」」」」」

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