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落ちこぼれ小隊1


ーーー


 どんなに肉体を鍛えても魔力が無ければ意味がない。

 なぜなら、魔力があれば老若男女関係なく力を振るうことができるからだ。

 さらに、鍛えた身体に魔力が合わさることで生身での長期遠征や長時間戦闘、さらには補助魔道具による空中戦などができるようになる。

 そのため、皇国軍では魔力量を重視し、魔力量が高い者は空戦隊に、普通の者は陸戦隊に配属され、低い者は軍に入る必要性がない。

 空戦隊、陸戦隊共に活躍に応じて追加報酬が用意されるので多くの魔獣どもを駆逐してくれ。

 魔獣を殺した数だけ民は救われ君達の生活は保障されるだろう。

 皇国の為に戦える者はその身を捧げよ!!


※一応、軍は常に人手不足なので魔力量が低くても陸戦隊に所属することができるが、実質ただのお荷物なので軍内部における扱いは酷いものとなる。

 それでもなお、軍へ志願するものは各地に所在する皇国軍駐屯地の志願兵用窓口へ向かうとよい。

_____

|不認可|

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

ーーー


 な、なんだこれは......広報がこのような物を作るとは......軍の人手不足がここまで来ているのか?


 私は寝室の隣の会議室という名の居間と化した室内のさらに隣に申し訳程度に拡張された簡易台所で服を濡らさないように顔を洗い、流し台の隣にある小型の自動給水機から水を使い捨ての紙製容器(コップ)に汲み、それを右手で持ちつつ一口飲みながら、長辺に席が5つ、短辺に席が2つ収まるほどの大きさの長方形の卓の上の台所側の隅に無造作に置いてあった、おそらく隊員の誰かが遊びに使っていたであろう紙の束から一番上にあった没案となった軍広報の入隊募集の紙を左手に取り、その場で立ったままそれをぼんやりと眺めていたのだが、文章を読むにつれボーッとしていた意識が覚醒してきた。

 あまりに頭がクラクラする案件だったので未だ夢を見ているかもしれないと考えた私は手に取った紙と水の入った容器を卓の上に置き大きく深呼吸をしてから自分自身の身の回りについて考えることにした。


 私の名前はエレナ。家名はない。3年前に皇国軍第5魔獣討伐陸戦大隊に入隊し、第5小隊に訓練兵として配属された。1年後、第13小隊の隊長に任命され、現在も務めている。階級は上等陸兵。そして、皇国の南部にある同大隊の第7駐屯地に所在している。

 この世界は魔獣と呼ばれる普通の獣とも虫とも呼べない未知の生命体が跋扈し、人間社会に脅威を与える世界。

 孤児である私は諸事情でお世話になった孤児院への仕送りのために軍に志願した。今はもう叶うことは無いが......


 ああ、いかんいかん。これはもう自分の中では決着のついた話だったな。掘り返してしまっては色々と申し訳が立たない。何か別のことを考えないと。

 えっと、そうだな。私には一般人と比べて魔力が殆どなかった。


 全体の平均と比べて魔力の低い者で結成される小隊はこの皇国軍にはいくつかある。だが、私はそんな彼等よりも魔力が低すぎるため一般兵より魔力的な働きはできない。そのためか、私は後方支援を主にこなしていた第5小隊に配属された。

 当時の軍の思惑を私は知らなかったが、私の入隊手続きを担当していた軍人は私の保有魔力量が極端に少ないことを知った途端に嫌な顔をして手続きをしていたので、少なくとも、その人物は私のような魔力が極端に少ない者が入隊することを快く思っていなかったらしい。


 その後、第5小隊で訓練兵として過ごしていたのだが、数年後に突然、新たな小隊を作り、私をその小隊の隊長にするという辞令が下り、私は第5小隊を抜けることになった。

 新しい小隊は私のような極端に魔力が少ないものによって構成される予定だったらしく、当然、その話を聞いた周囲からは無駄飯食いと蔑まれたが、軍人が暴力を振るってはいけないという軍の規律のおかげか、はたまたただ運が良かっただけなのか私は他兵士や国民から暴力を振るわれることはなかった。


 魔力が無ければ戦えない。これは、この世界では昔からある常識の話だ。魔法の効かない魔獣が登場してもそれは変わらなかった。なぜなら、身体強化という魔術が生まれ、銃と呼ばれる誰でも扱える対魔獣兵器という魔術具が開発されたからだ。

 だが、私は孤児院のために軍に入る決意をしてからも諦めずにひたすら体を鍛えていった。そして、入隊試験を無事に通り、入隊した後も第5小隊の隊長や隊員の方々の協力を得て、魔力にあまり頼らない戦闘技術を磨き、ひたすら知識を身に着けることにした。たとえ、周囲から無駄だと言われ馬鹿にされようとも続けた。私にはこれしかなかったからただ愚直に続けた。

 そして、いつしか私と同じように魔力が極端に少ない少女達が私の隊へ入隊してきて小隊として任務に励む時が来た。


 だが、最初の頃の任務は他小隊が戦闘をした後の魔獣と思しき残骸の片付けや戦闘中に廃棄されたものの中からまだ使える部品拾いなど雑用が殆どで、たまに駐屯地の夜間警備を行う程度だった。

 一部の隊員から不満が飛んでくるが、私は雑用が嫌いというわけではない。何かの役に立つかもしれない知識や経験を得られるからだ。


 それに、最近は人数が増えてきてからは哨戒任務を受けることが増えてきたしな。戦場に出れば当たり前だが死んでしまう可能性が出てきてしまう。私はこれ以上大切な人たちが死んでいくのを見たくはない。だが、その隊員は中々これを理解してくれなくて毎度言い聞かせるのに骨を折っている。まるで、可愛い妹のように......


 ああそうだ。魔獣といえば、軍の上層部が言うには奴らの素材は私達の生活に色々と役に立つもので、魔獣が強ければ強いほど良質で貴重なものになるとのことだ。だから、なるべく傷をつけずに討伐し素材を回収すればするだけ軍から金が貰える。それゆえに軍人は魔獣討伐に躍起になるし、一発逆転を夢見た入隊希望者が現れる。なるほど、随分と良くできた仕組みだと思う。

 たまに、私達は魔獣と遭遇するが、その大半は戦っている間に近くにいた他の小隊に介入を受け、すべて取られてしまう。そして、面倒な素材運搬はこちらに押し付けてくる始末。

 一応、哨戒任務を受けられるようになってから何度か魔獣を倒したことはあるが、軍全体から見ると、私達の小隊が最も魔獣の撃破数が少なく、軍から支給される給料は報酬と合わせても微々たるものである。


 一応、駐屯地の施設は軍人なら無料で利用できるので金に執着する必要はないのだが、一部隊員曰く施設の質はお世辞にも良いものとは言えないらしい。私は住んでいた孤児院や孤児、いや、弟妹達に申し訳なく感じるほどに良い環境だと思っているのだが。

 普通、多くの軍人は稼いだ金を使って近くの街へ行き豪遊するとのことだ。稼げない軍人は余程の理由が無い限り辞めていく。

 色々と言ったが正直なことを言うと、私にはあまり関係の無い話だ。私はただ、隊員達を、彼女達さえ守ることができるのならば、それで良いのだ......

 たとえどんなことをしようとも......たとえわたしがどうなろうとも......


 うっ、頭が痛い......我ながら詳しく説明できていると思うのでどうやら夢ではないようだな、とそんなことを思っているとどうやら誰かが起きたらしい。

 寝室の扉がそっと開き、そこから二等陸兵の襟章のついた軍服を着た、癖のない白色の短髪で白色の眼をぼんやりと開けている人物が現れた。そして、音を一切立てずに扉を閉めると体どころか髪すら揺らすことなくこちらへ歩いてきたので私は水を飲んでから寝室方面へ身体を向けてその人物に声をかける。


「おはよう、エミリー。まだ起床時刻じゃないけど、随分早いな。いつもこの時間に起きているのか?」

「おはよう......ございます......隊長......

 寝台に......イーザ......いた......

 身体......大丈夫......?」

 私の姿を見て何やら心配したような様子のエミリーが私の挨拶に対して丁寧にお辞儀をしてから挨拶を返し、ポツポツと話していった。


 おそらく、私が起床時刻より早く起きていることから、イザベラの寝台侵略によって私があまり寝られていないのだろうと思っているのかもしれない。

 そんなことを無表情なエミリーから読み取った私は彼女を安心させるように夢のことは内緒にしつつ話し、ついでにふと気になったことを聞いてみることにする。


「ああ、うん。身体は大丈夫だ。たまたま、少し早く起きたとはいえ、それまではきちんと眠れていたよ。

 確かに、イザベラには驚いたけど、ただそれだけだよ。

 それよりも夜中に誰かここで何かやっていたのか? 私が寝る前には皆眠っていたしこれらの紙は無かったはずだけど」

「そ......それは......」

 卓に置いてある紙を指さしながらした私の質問にエミリーが無表情ながら少し気まずそうに言い淀んでいたので、それを見た私は犯人の一人にイザベラが関わっていると判断し、もう一人はおそらくいつもの人物だろうと心の中でため息をしながら推察した。

 まあ、犯人が誰かは置いておいて、これの処罰はどうしたものか、と私が悩んでいるとエミリーの後ろから別の人物の声が聞こえてくる。


「それは、イザベラとサラーの仕業ですわ。

 ......って、その顔は、やはり、という顔ですわね」


 聞こえてきた声にエミリーが驚くことなくスッと右へ振り返り私が少し左へ体をずらして声をかけた人物を確認すると、そこには上等陸兵の襟章がついた軍服の背中まで届く長い桃色の髪を手で軽く整えながら赤い色の眼に若干の呆れを宿した状態でやってきたメリーナがいた。


 やはりそうか、と自分の予想が当たったことに若干の悲しさを覚えた私は一応メリーナに詳しく聞こうとするが、その前に未だに扉付近で立ちっぱなしのエミリーとメリーナに適当に席に座るように言ってから自分の飲みかけの容器を持って台所へ向かい新しく2人分の容器を用意し人数分の水を汲んできて寝室の扉側の席に隣同士に座った彼女達に渡そうとする。


「す、すみませんですわ、エレナ隊長。その、隊長に水を汲ませてしまって」

 卓の短辺側の席いわゆる隊長席のすぐ右隣の席に座っているメリーナに私が容器を渡そうとすると彼女は椅子から立ち上がり深々と頭を下げてから両手で受け取り、その後素早くそれでいてこぼさぬように椅子に座るとなんだか大事そうに中の水を見つめていた。


「ありがとう......ございます......」

 そして、メリーナの右隣に座っているエミリーに私が容器を渡そうとすると彼女は椅子に座ったまま軽く頭を下げて両手で受け取り、その後チビチビと水を飲み始めた。


「気にしなくていい」

 水を飲むだけでこんなにも違いがあるというのは、なんというか、その、かわいいな......と私は自分の容器を右手で持ったまま二人の様子を見ながら心の中でホッコリしていたが、うっかり顔に出そうになってしまったので、いかんいかんと気を引き締め一切顔に出さないようにしながら隊長席へ向かいそこの卓上に容器を置いて椅子に座った。


「......あー、コホン。とにかくメリーナ、話の続きを頼むよ」

 二人が私の顔を見ていたので私は誤魔化すために咳ばらいをして一向に水を飲む気配のないメリーナに話の続きを話すよう言った。

 私の言葉を聞いてうなずいたメリーナは一度水をクイッと一口飲んでからゆっくり思い出すようにそして、整理するように話し始める。


「は、はいですわ。

 それは、消灯時刻から2、3時間後のことでしたわ。あたしは偶然目が覚めてしまい、再び寝る前に喉を潤すために水を飲もうと寝室の扉前に移動した時、扉の先の会議室から物音が聞こえたので何事かと警戒しながらゆっくりと扉を開けて覗いてみましたの」

 メリーナは最初、いつものように体の力を抜いた状態で話していたのだが、話の途中から当時の心境を思い出したのか、肩に力が入り始め両手に持っている容器がプルプルと震えだした。やがて限界を超えたらしく、容器から水が少し飛び出すくらいに力が入っていた。


「すると、そこに私達の使う支援車両から持ち出した野営用携帯型照明器具の灯りをつけ何やら作業を行っていたサラー、イザベラ、エミリーの3人がいましたの――」

「ん? 遮ってすまない。色々とあったが確かめたいことが。

 えっと、その場にエミリーもいたのか?」

 容器を握りつぶさず水が零れないよう器用に力を入れているメリーナの話を聞いていた私はエミリーの名前が話に出てきたので、メリーナがまだ話している途中だったが、割り込んでいったん話を中断させた。

 エミリーがサラーの悪だくみに参加するなんてあり得ない、と思った私は確認を取るためにエミリーに直接聞いた。


「はい......ごめんなさい......その......」

 そして、聞かれた張本人であるエミリーは無表情ながら申し訳なさそうに答え、何かを言いたそうにしていた。

 その時のエミリーの何とも言えぬ雰囲気から色々と察した私は目頭を押さえたくなる気持ちを抑えて情報の整理をするため彼女たちに話をする。


「ああ、なるほど。その様子じゃ、イザベラの付き添い、というより巻き込まれただけか。

 すると、元凶はサラーだな?」

「はい、その通りですわ。

 話の続き、というより少し前の話になってしまいますが、サラーが夜間の見回りが少ない時間を狙い、警備の目を掻い潜って車両倉庫に保管されている第13小隊用中型支援車両から照明器具を持ち出し、管理倉庫の一般廃棄物用回収箱のひとつからこれらの紙をくすねてきて、これらとこの部屋にある鉛筆を使って遊んでいたのですわ」

 うーん、サラーの軍嫌いは把握してるが、一般廃棄物とはいえ軍の物を許可なく拝借してくるのはさすがに擁護できない。というより、私達が使っている物とはいえ野営具を勝手に持ち出すなよ。絶対にこれは手慣れているよな。あとで灸を据えるとして今回のことは大隊長殿にきちんと報告しないと。たぶん、除隊や降等処分は無いだろうが便所清掃以上の罰は覚悟した方が良さそうだ。だがしかし、下手をすれば軽営倉入りものなのになんで今まで呼び出しが無かったんだろうか......

 と、痛み始める頭に悩まされながら色々と覚悟を決めていた私はメリーナの話の続きを平常心を持って聞いていた。


「そして、そこへお手洗いに行くために起きたイザベラと彼女の付き添いとして起こされたエミリーがやって来たのですわ」

 だが、イザベラが参加する流れを聞いてまたしても目頭を押さえたくなり、代わりにため息を吐くようにメリーナの話の続きの展開について確信をもって喋った。


「なるほど。そしてイザベラが興味を持ってしまった、ということか......」

 イザベラはまだ幼いとは言ってももう13歳だ、身体検査は済んでいるし、後2年で成人だ。それに同い年のエミリーは口数が少ないが立ち居振る舞いに関しては成人に引けを取らない。イザベラのことは可愛い末っ子のようだと思っているが、さすがに皆で甘やかし過ぎただろうか。だが、今更厳しくしようとしても1番イザベラを甘やかしているエミリーがそれを許さないだろう。

 うーん、と無意識に腕組みをしながら思考が脱線していると、メリーナが補足情報を上げてきたので、おっといかんと私は思考を中断して組んでいた腕をほどき彼女の話に耳を傾ける。


「一応、一連の話はあたしが問い詰める前にサラー本人があっさり白状したことではあるのですが、ほぼ間違いないかと思われますわ」

 少し休憩をしますわ、とそう言ってある程度話し終えたメリーナは水を飲んで、はふぅと一息ついた。

 メリーナが一息ついている間に私は、この場合は隊長としてイザベラを叱るべきか、だが、原因はサラーだしなぁ、うーん、やはり少しは叱るべきか、と悩みに悩んでいた。

 またしても無意識に腕を組んで考えていた私の様子を見たエミリーがさらに申し訳なさそうに無表情ながらシュンとしながら話し始める。


「ごめんなさい......イーザ......止められなかった......だから......私」

「ああ、その、なんだ、エミリーが悪いわけではないよ。だからほら、そんなに肩を落とすな」

 エミリーの目から涙が見えたような気がした私は慌てて腕をほどいて椅子から立ち上がって彼女に近づき彼女の背後から左肩に左手を置き、右手で頭を撫でながら己を責める彼女を宥めるが一向に治まる気配がなかった。

 なので、私は左隣で小声で何かをつぶやいていたメリーナに同意を求めた。


「な、なあ、メリーナもそう思うだろう?」

「エレナ隊長に頭を撫でてもらえるなんて羨ましいですわ......でも自分から求めるのはちょっと、いや、かなり恥ずかしいですし......でも......うーん......」

「メリーナ? おーい、メリーナ」

「はっ、あ、はいですわ。エレナ隊長の言う通りですわ。

 ......何の話でしたっけ?」

 なんかメリーナの様子がおかしい気がするが、今はそれどころではない、と私はメリーナから同意を得たので急いでエミリーを安心させようと彼女の体の向きを椅子ごと動かして向かい合うようにし再び頭に右手を置いて目線を合わせるようにしゃがんで優しく話しかける。


「ほら、そういうわけだから。それに、イザベラに罰は与えないから」

「ほんとう......?」

「ああ、少し叱るけど、きつくは言わないから」

「わ......私も......イーザを......叱る......」

 ようやく安心したのか、落ち着き始めなんだか嬉しそうにしているエミリーを見て私はホッとしつつ、大人びていると思っていたが、やはりエミリーもまだ子供なんだ、と改めて思いながら彼女の椅子を元の向きに戻した。

 そして、左隣でジッと見つめていたメリーナに私は何を言えばいいか分からないが頑張って話しかける。


「その、大丈夫か?」

「あ、いえ、大丈夫ですわ」

「そ、そうか」

 なんだかよく分からんが隊員たちについて色々と気をつけねばな、少し皆に甘くし過ぎたのだろうか、と今後について考えながら自分の席に着き、どっと疲れた私はいったん水を飲んで一呼吸置いてから二人の様子を見て、正常に戻ったと判断してから話の続きについて話し始める。


「ふぅ。話を戻そう。えっと、あれか、しばらく遊んでいてメリーナに見つかったところか。後の部分は何となくだが分かる。

 メリーナに怒られ、特にサラーはコッテリ絞られただろうな。そして、イザベラとエミリーは寝るよう言われ、サラーはメリーナと共に後片付けをした。サラーは照明器具を車両に戻しに行き、残った紙は倉庫の鍵がかかっていたため後でコッソリ戻そうとした。と言ったところだろう。

 ついでに言えば、イザベラがこの時に私の寝台に潜り込んだんだろうな」

「ええ、色々と疲れましたわ」

「すごい......全部......隊長の......言う通り......です......」

「正直、当たってほしくはなかったのだけど......」

 ああ、その場の光景がくっきりと見えるな、と思いながら私はこれまで得た情報からおおよその流れを話すとサラーが昨夜の出来事を思い出してしまったらしくくたびれた顔をしてため息を吐くかのように愚痴をこぼし、エミリーが無表情ながら目を輝かせるかのようにこちらを見つつ私の考えを肯定した。

 エミリーから全部合ってると言われてしまい、メリーナのため息のような愚痴に影響されたのか私はつい右手で目頭を押さえながらため息を吐いてしまう。


「はぁ......サラーの能力は実戦でかなり役立つのだけど、いかんせん、彼女は不真面目で軍嫌いだからなぁ。

 とにかく、今回の一件は、軍の備品の私物化と一般廃棄物の横領、そして、それを隠蔽しようとしたことと軍の施設とはいえ無断侵入に小さな規律違反がいくつかといったところか。

 しかも、以前から常習的に行われていた可能性がある、と。

 ......すでに痛い頭がさらに痛くなってくるな」

 今までの話から該当する違反行為の数々を確認した私が、今回の出来事が他の小隊の隊員や職員に見つかっており、すでに大隊長殿経由で上層部に報告されていた場合、果たして私が怒られるだけで済むだろうか、いや、ここ最近の軍の状態からしてないだろうな、とにかく、大隊長殿に私達が除隊されないようにお願いしてみるしかない、と半ばあきらめの境地で小隊の存続について考えていると、メリーナが俯き涙を流しながら心の底から自身の至らなさを噛み締めるように私に謝罪をしてきた。


「事後報告になってしまい申し訳ありませんでしたわ。この罰はあたしが責任を持って負います。大規模作戦が近いというのに隊長の負担を増やしてしまいましたわ......」

「いや、メリーナは私に代わって叱ってくれただろう。それで十分だ。

 責任は隊長であるにもかかわらず今まで隊員の問題行動を咎めるどころか発見すらせず呑気に寝ていた私が取る。自分で言うと情けなくなるな。

 だから、その、気に病む必要はない。少なくとも、国や軍を侮辱するようなことは無いはずだから大丈夫だ......その......たぶん」

 メリーナに一切の非は無く、ここまでサラーを放置していた自分に責任があるのだ、と私は正直な気持ちを言い、最後部分は小声になりつつ彼女を安心させるために背後からゆっくり身体を優しく抱きながら頭を撫でた。


「ほぁ......エレナ隊長......その、恥ずかしいですわ......」

 メリーナにはいつも苦労を掛けている、やはりもう少し厳しくした方が良いのかもしれない、と心の中で謝罪しつつしばらくそうしていると、寝室の方から物音が聞こえ始めたので私は、もう起床時刻か、覚悟を決めねばな、と思ってメリーナの頭から離れ名残惜しそうにしている彼女の頭を軽く叩いてから座っていた椅子に戻り、隊長としての威厳を持ちつつ順に起きてくる他の隊員を迎える準備をした。

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