徴収はATM
4月7日
「舞さん。俺、フラれちまったッス」
「は? どうしたいきなり。プロポーズするんじゃなかったの?」
「それが……別の男と歩いてるの見かけちゃって」
「あ~……でも、何かの間違いの可能性も?」
「そう思って、直接聞いたんスよ。俺のことをどう思ってるのかって」
「そしたら?」
「ATMがいいって」
「あちゃ~、お気の毒に」
「確かに俺はATMが良いけど」
「それは違うね?」
「あんまりッスよ」
「そこは同情する」
普段から遅い高旗の仕事だが、今日は完全に手が止まっていた。
「でもさ、この際だから聞いちゃうけど、高旗も女の子泣かせてたりしない?」
「え? 俺そんなことゼッテーしないッスよ」
「本当に? 胸に手を当てて良く思い出してみて?」
「え、じゃ遠慮なく」
「ちょっ! おまっ! 今どこ触ろうとした」
「だって胸に手を当てて良いって」
「自分のだよ!」
「あ、サーセン」
そこへ彩も顔を出す。
「なになに? 例の話? 気になるぅ」
「小浮気さんまで。俺、何も悪いことしてねーッスよ」
「疑っている訳じゃないのよ? でも風の噂でね? 前の課で何かなかった?」
「あ、そのことスか」
「別に無理に話さなくても良いのよ?」
「まあ、その子に悪いから俺からは話さなかったんスけどね。確かに告られました」
「その子は高旗くんに彼女いるの知らなかったの?」
「知ってたッスよ? 俺、隠し事しねーッスもん。だから、カノジョを裏切ることも出来ないし、ハッキリと断ったッス」
「そうだったの……でも、高旗くんはそれで良いの? 正直、あまり良くない噂になっちゃってるみたいだけど。高旗くんは何も悪いことしてないんだよね」
「良いんスよ。その子だって、すげー勇気出して言ってくれたんスから。追い討ちをかけるようなことはできねーッス。悪ぃのは俺で良いッスよ。だから小浮気さんも舞さんも、何も聞かなかったことにして欲しいッス」
「彩さん。この子、なんか思ってたのと違います」
「そうねえ」
「え? 二人とも、俺のことを何だと思ってたんスか?」
「「ポンコツ」」
「ピンポーン」
「当たりかよ!」
「だって、結局はそのカノジョにもフラれちゃったんスよ? 俺」
「元気だせよ、高旗くん」
そこへ声をかけて来たのは納税課の正義だった。
「あ、高橋さんスか。笑ってくださいッス。俺、ATMが良いってフラれちゃったんスよ」
「違うだろ。……正義さん、実は高旗、ATM扱いされちゃったみたいなんですよ」
「ATM? 酷いなそれは」
「流石に私もコイツ可哀想だなって思い始めてて……」
「でも高旗くんは間違いなくATMだな」
「高橋さんも酷ッス」
「いやいや、違うんだよ。俺が言ったのは納税課流のATMさ」
「「納税課流のATM?」」
「そ。俺は納税課に来て最初の研修でまずこの言葉を習ったんだ、徴収はATMってね」
「「徴収はATM?」」
「明るく、楽しく、前向きに。……ほら、納税課はクレームとか多いから、一番最初の研修でそう教わったんだ。いつもの高旗くんにピッタリだろ、ATM」
「明るく、楽しく、前向き……そッスか?」
「俺は高旗くんの良いところだと思うよ、ATM」
「マジッスか。ATM、俺の良いところッスか」
「だから、早く元気出せよ」
「……アザッス。俺、高橋さんのお陰で元気出てきたッス」
「お、その意気だ、頑張れよ」
「はい! 超絶リスペクトで、次からは正義さんと呼ばせてもらうッス!」
「それは遠慮して欲しい」
「うおおおおっ! 俺はATMになるッス!」
「「ゴチになりまーす」」






