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MVごっこ  作者: すい
1/1

主演

 「さて。」



 その日もいつもと同じように、イヤホンのケースを開けて、iPhoneと同期された事を確認する。

 昨日発表されたばかりのEPをシャッフルはせずにループ再生で流す。



 車通りはあまり多くない。けれど無くはない。夜風が気持ちいい。そんな時間に僕はいつもと同じ歩幅でノロノロと帰路に着いていた。


 

 我ながらませた曲を聴いている。16歳にこんな恋愛を聴かせるな、とすら思う。

 まあ自分で選んでいるのだけれど。



 大通りを抜けると、僕の家までは300m程度だ。ここからは僕の秘密の時間だ。

 これが恥ずかしい行為なのかそうじゃないのか、僕にはそれを測る物差しが無かった。

 端的に言うと、僕には友達がいないのである。これが普通なのかおかしいのか議論をする人が居ないのである。



 曲に酔って、なのか、疲れを発散して、なのか、始まりはもう忘れてしまったけれど。

 少し大きく肩を動かして、歌詞を口ずさみながら、手なんか動かしたり、ない記憶に重ねて物思いに耽ってみたり。僕はそれをMVごっこと読んでいる。



 これが何のためになるのか、なんて聞かれたら全くなんのためにもならない。1人の時間の使い方くらい自由にさせてくれと思う。

 誰に諭された訳ではないけれど。



 これが僕の毎晩のルーティンだった、雨が降らなければ。





 今日もイヤホンケースをぱちん、と閉じて耳に押し当てる。

 今日はYouTubeでchill mix、なんて纏められてた曲の中で気になった"chocolate legs"とかいう洋楽を聴いている。

 恋愛経験が残念ながら無いので、どんなラブソングを聴いたって「悲しいな、」「うまい言い回しだな、」なんて事しか感想が出てこないんだけど。



 その日の僕は天気予報を見ていなかった。お察しの通り雨が降った。コンビニの軒先で雨宿りをすることにした。iPhoneの天気予報ではまだ結構降るみたいだ。



 音楽のせいか、雨も綺麗に見えたし、なんとなく「こんな夜も悪くないな。」なんて思っていた。



 そんな時だった、この夜だ、彼女と近づいたのは。



 視界に入ってきたのはクラスメイトの女の子だ。咎められない程度に少しだけ制服を崩していて、そこそこクラスの中心にいる様な子、という印象だった。特段話をした記憶は無かった。

 


 彼女も雨宿りに来たのだろう。何か話しかけてくれている様だったので僕はイヤホンを外した。

「すごい降ってきたよねー、私傘置いてきちゃったー、」置き傘にしろ何にしろ、傘をそもそも持っていなかった僕には何も言えなかった。そもそもあまり話したこともない子だったので、「なんだかすごく距離が近い子だな、」とか思っていた。



 その子はコーヒー牛乳を買ってきた。

 買い食いなんて良くない、と言うと「飲みだからセーフ。」などと言って笑っていた。



 「何の曲聴いてるの?」

 他にもいくつか何でもない話をしていた、急にこの質問が来たのは僕が片耳のイヤホンを外していなかったからだろう。すみません。



 イヤーピースはマメに清掃しているし、ワイヤレスイヤホンの外した方の片耳を彼女に貸す。ワイヤレスなので自然に距離が近くなることもないのだけれど。

「なんかオシャレだけど何言ってるかわかんないね笑」「このマセガキがー笑」とか言われたけど、妥当な評価過ぎて「わかるー、」とかそんな返事しか出来なかった。



 一通り曲が終わった後に彼女はコーヒー牛乳をストローで啜ると、「なんかこれすっごい合うね、なんだろ、マリアージュって言うの?」なんてふざけた真面目な顔で言うからマリアージュなんて高校2年生が知ってて当たり前の単語なのか…?なんて思っていた。

 ツッコミなんて出来ないから「なにそれー、」と少し笑いながら返した。にしても適当に発言をし過ぎだ。多分。



 しばらくすると、彼女は家族が迎えに来てくれた様で、車で帰ってしまった。

 「よかったら送るよ!」なんて言われたが、あんまり話したことも無かったし、単純に悪いな、と思ったので丁重にお断りした。彼女はすぐ友達を作ってしまうタイプの様だ。悪い気はしなかった。



 彼女が乗った車が見えなくなった頃、僕はコンビニでコーヒー牛乳を買った。

 ストローで一口啜った。

 「なるほど、これがマリアージュか。」



 彼女にイヤホンを渡したままだと気がつくのは、少しして、ずっと片耳から、小気味良く雨音と、車が走る音がすることに気がついてからだった──。






 僕は次の日、風邪をひいた。十中八九、昨日の雨のせいだろう。

 日中、誰かから連絡が来ることもないし、家には1人しか居ないし、YouTubeをみたり、読んでいなかった漫画を読んだり、眠ったりしていた。

 夜になるとだいぶ身体もラクになっていて、夜風に当たりたくなって僕は片耳だけのイヤホンをして、外に出た。今夜は雨は降らないらしい。



 通学路とは違う道、普段通らない道を歩いていた。

今日の曲は“cinderella step“。

 等間隔に、少し離れて置いてある街頭がスポットライトに見える。通る車のヘッドライトのピントがボケて綺麗に映っているように感じる。今夜のMVごっこはなんだか絶好調で笑ってしまう。服なんて適当なのに。



「──何の曲聴いてるの?」



 僕はドキッとした。お察しの通り、振り返ると彼女がいた。

 別に彼女のことが好きになっていたとかそんな事はまるでないけれど、誰もいないと思ってこんな事をしているのだ、驚くに決まっている。



 咄嗟に何でもない顔を作って、「うわ、びっくりした笑」なんて言ってみたけど、一部始終は全て観られてしまっていた様だ。悪戯な顔の君がいる。



 「体調大丈夫なの?」一頻りからかわれた後、彼女はそう言って心配そうに僕を見た。すっかり風邪で休んだ事を忘れていた。ワーカーズハイ?みたいなものになっていた。



 「大丈夫。」と心配してくれた事に対してのお礼や、本当に何でもない話をしていたら、「私の家こっちだから!」と言うのでそこで別れた。

少しだけ見送ると僕は道なりにもう少し散歩をする事にした。

 MVごっこをし始めようとした時、「ねえねえ!」とこれまた凄いタイミングで彼女が話しかけてきたのでまたびっくりした。



 僕の不満な顔なんて気にも留めない様な声で、「LINE交換しよ!」なんて言うのだ。特に断る義理も無かったので、僕は彼女とLINEを交換する事にした。



 家に着くと「明日イヤホン返すね!おやすみ!」と幾つかの絵文字とLINEスタンプで、華やかなメッセージが送られてきていた。

 「おやすみ」とだけ送った。LINEの友達は公式アカウントを除くと1人目だったし、普通のメッセージがわからなかった。スタンプも標準のものしかなかったし、そんな気軽な感じで話しかけていいのか…??なんて考えていると、時計は2時を回っていた。電気を消して、いつも寝る時に流す“好きな曲”を流してベッドに潜り込んだ。



 ──「おやすみ」。



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