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14.君を傷つけさせたりしないよ

 彼女が触れた指先が、とても温かくなる。そのまま気持ちまで温めてくれそうだ。


「ありがとう、ございます。エリク」


 少し恥じらう頬が赤く、寒さではなく照れているのだと気づいた。僕のエスコートでこんなに喜んでくれるなら、ずっと手を繋いでいようか。いっそ歩かなくていいように、抱いて移動してもいいね。


 もう少しトリシャとの距離が近づいたら、僕は君を抱いて歩くことにしよう。部屋の中以外、どこへ行くにも僕の腕の中――うん、いい考えだ。


 高いヒールの靴で裾を踏まないよう、指先で摘んだスカート。それももっと長くして、靴は履かなくていいかな。いや、万が一にも裾から素足が見えたら困る。トリシャの白い爪先を見たら、世間の男は獣になってしまう。


 悩ましい問題に頭の中を埋め尽くしていたせいか、僕はらしからぬ失態を犯した。


「皇帝陛下ぁ! あたくし、ずっとお待ちしてましたの! ねえ、あたくしの部屋でお茶にしませんか。そのままお泊まりになっても……きゃぁああ!」


 香水臭い女が僕の腕に絡み付いた。胸を押し付け、エスコートしていたトリシャを睨みつける。腕を振り解き、トリシャを庇う位置に立った。こんな女の目に、美しいトリシャが映れば穢れるじゃないか。


 娼婦さながら、胸元が大きく開いた下品なドレス姿の女は、双子の騎士が両脇から掴んで地面に引き倒された。悲鳴なんてあげても、全然同情の余地がない。


 この国の王女、いや王妹だったか。属国の王位継承権を持たない王族なんて、僕が覚える価値もない。たとえ王太子でも同じ。トリシャや僕に無礼を働くなら、息をする権利も与えない。睨みつける僕の怒りが伝わったのか、執事のニルスが命じた。


「この女を地下牢へ。皇帝陛下に触れた指を切り落とし、その腕を砕きなさい。胸を押し付ける品のない行動に相応しい場所へ移送します」


 僕の判断を伺うように待つ騎士と執事に、僕はいろいろと不満を飲み込んで頷いた。相応しい場所は娼館だろう。この場でトリシャに聞かせる単語ではないからね。言わなかったのはさすがだ。


 処罰の内容は軽すぎる。許可なく僕に触れ、愛しいトリシャを睨んだ。その目を抉って潰しても足りない。でもトリシャの前で、そんな命令を出したら僕の価値が落ちる。


「行こう、トリシャ」


「よろしいのですか?」


 心配そうに女の様子を窺うトリシャに、微笑んで僕は促した。並んで歩くトリシャがそっと振り返り、びくりと肩を震わせる。あの女、懲りていないのか。完全に振り返らず、だが分かっていると示すために右斜め下の床を睨んだ。


「刑罰を重くしてください」


「「承知しました」」


 双子の兄マルスが命じた言葉に、騎士が声と踵を揃えた。子供の頃から僕の護衛をしていただけある。さすがに彼らは察したね。


 刑罰を重くなんて濁したけど、これからあの女に待ち受ける運命は決まった。目を抉り、口を縫い合わせ、手足を完全に潰す。ダルマと呼ばれる処刑方法のひとつだよ。帝国の代々の皇妃は残酷な女が多く、嫉妬に駆られて側妃や愛妾をダルマにして、娼館へ捨てる刑罰を作った。稀にそのまま壺に入れられて、死ぬまで溶かされた女も記録にあったね。


「トリシャ、僕だけを見て。僕以外の誰も君を傷つけさせないし、傷つけたら処罰する。そうだ、これを法に記載して公布しようね」


 新しい法を作るのは面倒な手続きがあるけど、トリシャのためなら明日にでも施行させよう。微笑みながら、強張ったトリシャの肩に僕の上着をかけた。


「エリク、あの」


「僕はトリシャを幸せにするために生まれたんだよ。そのための権力、そのための地位だ。財産も命もすべて、君のためにある」


 だから僕の鳥籠でいつも笑っていて欲しい。

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