松本さん、悠希です
「さっきの部屋が大体頭が客を迎える部屋だ。お前が暮らすのはこっち、南側の方だな。大広間と台所、あと風呂場と洗濯場がある」
私は今松本さんにお屋敷の案内をしてもらっている。
柄は悪いが丁寧だし、今気づいたがこの人歩幅を私に合わせてくれている。
以外だ。
「おい、聞いてんのか」
「はい。ギャップでモテそうだと思います」
「なんの話聞いてたんだよ」
睨まれた。
話変えちゃおう。
「それにしてもここ広いですよね」
「組員も暮らしてるからな」
「そうなんですか?」
「俺も含めた三十人くらいな。大抵下っ端は二人部屋だが、お前はガキとはいえ女だし、ちゃんと一人部屋だ」
「ありがとうございます」
「風呂は大風呂の隣のドアが個人で入れる風呂だからお前はそっち使え」
「分かりました。…失礼な話、もっと過酷な環境におかれると思っていました。それこそ寝る場所も与えられないかと」
「テレビの見すぎだろ」
「やっぱりフィクションですか。テレビの中ってイメージなんですね。といってもここ二年以上テレビ見てないんですけどね」
「ああ?」
「電気停められてたんで」
「どうやって暮らすんだよ」
「世の中、家がなくても生きていける人はたくさんいますよね」
「お前…ホームレスだったのか?」
「寝る時は帰ってました。ホームレスは生き方を教えてくれた先生であり、友達ですね」
「ガキらしくないガキができた原因だろ」
「失礼な。文字や計算などの勉強からご飯の見つけ方にお金の稼ぎ方、他人に貢いでもらう方法までけっこう為になるんですよ」
「他人に貢いでもらう方法ってなんだよ…」
「そこはいろいろです。ちなみに私は一番得意でした。美少女ですからね」
全力で引かれた。
……ちょっとショックだ。
「松本さんは普段なにされてるんですか?」
「あ?借金の取り立てとか、組が元締めしてる店の見廻りとかだな。まあ、こんなガキのお守りまでするとは思わなかったがな」
「あの、できればその、「ガキ」っていうのじゃなくて名前で呼んでくれません?」
「あん?」
「駄目ですか?」
「……」
「……」
「お前名前何ていうんだ?」
「えっ…」
「……」
「高坂悠希、9歳です。よろしくお願いします」
「よろしく、悠希」