いくらなんでも百万は安くない?
書きたいものを書いてみてます。
初めてですが、お願いします。(*≧∇≦)ノ
その日、私は売られた。
広い日本庭園を横目に、これまた恐ろしく大きな木造屋敷の廊下を男の後ろについて歩く。
男は30後半くらいで柄が悪そう、というか悪い。
なんてったってヤクザだし。
「いいか、お前はな、母親に借金のかたにされたんだよ。」
面倒臭そうに男が言う。
「ったくもう少し成長してんならギャバ嬢にすればすむのによ、ガキなんか渡されても仕方ねぇっつうの。」
男の言う通り、私はまだ9歳のこどもだ。
いつか捨てられるかもと思っていたけど、私からしても想像以上に早くて驚いた。
「すみません、私はこれからどうなりますか?」
「さあな。今から上に聞きに行く。」
「あの、働けないなら臓器で払え!とかなりますか?」
さすがに借金の片で殺されるのは嫌だな。
それなら駄目元で逃げようか、と思ったのだが、
「ねぇよ。うちは薬と人身売買はしねぇ。一般人にはな。」
あっさり否定される。
「以外と優しいんですね。」
「なわけあるか。このご時世サツがうるせえからな。はした金の為にすることとしちゃぁリスクの方がでけえだけで、貸したもんは返してもらうし、脅しも殺しもするんだよ。」
「なるほど。あくまで利益の問題なんですね。」
ヤクザの世界も以外と大変だ。
視線を感じて目を向けると、男が苦い顔でこちらを見てくる。
「なにかありましたか?」
「お前さっきからほんとに分かってんだろうな?母親にたった百万で売られたんだぞ。これからお前はヤクザから逃げらんねぇ。」
「そうですね。でも母親っていっても義理なんですよ?産みの母は五歳の時に死んで、父は一年前に蒸発してしまいました。今の義母親は四年前に父が再婚した相手です。」
「そういう話してんじゃねぇよ。ガキの癖にこの状況で落ち着いてんのが気色悪い。」
「ひどいですね。泣きわめいたり怒鳴ったところで状況が良くなるわけでもないじゃないですか。それともそういう子どもの方がおじさんは好きなんですか?」
「…松本だ。たしかにそういうガキは嫌いだ。けどお前みたいな反応よりも理解はできるな。」
「私にはその"普通の子ども"の方が理解出来ませんね。」
泣いて怒ったところで生きていけるわけでもない。
今までだってそうだった。
売られたことも大して悲しくはないのだ。
愛情どころか関心すら、最初からなかったのだから。
いや、怒鳴って殴り付ける関心はあったか。
「っふ」
無意識に失笑が漏れる。
それを見た松本さんの顔が歪む。
"気味悪い"
その表情は口よりも雄弁に語っていた。
正直な人だなぁ。
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ようやく長い廊下を歩き終え、一つの部屋の、襖の前で止まる。
「頭、連れて来ました。」
「入れ」
渋い、聞くと自然にお腹に力が入ってしまうような重たい声がした。
松本さんは襖を開けると目線で私に部屋に入るよう促す。
さすがに少し緊張するなぁ。
「…失礼します。」
広い和室。
そこには、上座に和服で堂々と座る男の人と、その横に付き従うように座る、スーツの男の人。
見ただけでどちらが頭と呼ばれる人物なのか分かる。
真っ暗な髪に真っ黒な瞳。
掘り深く整った顔だが醸し出すオーラが冷たくすぎて恐ろしい。
絶対に軽々しく接することは出来ないなぁ。
「座れ。」
「はい。」
畳四つ分距離をあけて目の前に座る。
「おれは一ノ瀬高馬イチノセコウマだ。お前の名前は?」
「高坂悠希コウサカユキです。」
「歳は?」
「9歳です。」
「聞いてるだろうが、お前には親の尻拭いをしてもらう。」
「はい。」
ろくに世話になった記憶もないが、親であることには変わりないから仕方がない。
けど考えようによっては良かったよなぁ。
これ以上の迷惑をかけられることはなくなったわけで。
借金も百万だけ、それほど返せない額ではない。
むしろ子どもを売るにしては思っていたよりも安い値段だ。
それほどあの人にとっての私に価値がなかったということだが、いづれ切ろうと思っていた縁をむこうから切ってくれたと思えばよほどいい。
「そうはいっても今お前にできる仕事はない。」
高馬さんが私を見ながら言う。
「顔は良さそうだから八年もすりゃぁ稼げるようになるだろう。それまではここで養ってやる。だがその間のお前の生活にかかった金は借金に上乗せする。利子もあるが、ここの手伝いでもすれば働きによっては給料やるから、それで返せ。いいな。」
「はい。」
拒否権のない命令で、私のこれからが決められた。
自分の感性ってどこまで一般的なんでしょう?
普通の基準も人それぞれですよね( ´-ω-)?