弱小ギルドの受付係の1日
サグン暦998年金月の4日目。はれ後くもり。ところにより青スライム。
このペンは王都から来た業者から買っただけあって書きやすい。
「おい、ねーちゃん!青スライムの取り忘れだぞ!」
「え!!」
今日の日報を書いている時に、入り口から冒険者の声がした。ペンを止めて、急いで収納BOXを数える。
日報の通り、今日はよく晴れたあと突然くもり、雨の代わりに青スライムが降った。
青スライムは90%水で出来ていて、9%が酸を作る器官と消化器官。残りの1%は魔石という綺麗な石で出来ている。
スライムの中では一番弱くて、手を出さなければ攻撃してこないし、あまり動かないから子供の小遣い稼ぎに丁度いい。
普段だったら簡単に討伐出来るけれど、今回は数が多かったために街中がスライムだらけになったので、子供以外の冒険者にも依頼を出したのだ。
青スライムは50匹で報酬が銀貨1枚、棒で突くだけで倒せるのでギルドポイントは1ポイントになる。今回は29箱納品にしていた。
30箱目のスライムの数は49匹だったので弾いていたのだ。数が足りないと報酬を渡せない。
「すみませんでした!」
「報酬が減るからミスしないでくれよ!」
「ちゃんと数えたつもりだったんですけど…。」
ギルドに勤めてから2年。ミスがない様に気をつけていたけれど、納品数を間違えるなんて初歩中の初歩のミス!
受け取った青スライムを鑑定する。LV.5の個体で、酸攻撃と水魔法が使えると…。
「ん?これ最初に数えた個体と同じですね?」
「…いや、違うぞ!」
青スライムで魔法を使える個体は珍しいので覚えていた。不思議に思って最初に数えた箱を見ると、中にあったスライムの数が足りない。
つけていた納品テープを確認すると一度剥がした形跡もある。納品テープはトラブルを避ける為、一度剥がすと裏の色紙が破けるように出来ているのだ。
「…勝手に開けましたね?」
「チッ!ちょっとくらいおまけしてくれよ!」
この冒険者は私が他の収納BOXを確認している隙に、確認が終わっている収納BOXを開けて最後の箱に足りない分をつけたそうとしたらしい。
「ダメです!納品数が足りないものに報酬は出せません!」
「うるせーな!とっとと報酬を出せ!」
胸ぐらを掴まれそうになったので結界を張ろうとすると、その前に冒険者が動かなくなった。
「キオ、君が悪いね」
ひんやりとした声がする。恐々と後ろを振り返ると、青銀の髪の儚げな男性が立っていた。
「げっ!クリス先輩!」
「手癖の悪い冒険者の前に収納BOXを置いたままにするなんて君は、受付の自覚があるのかな?」
「すみませんでした!」
冒険者の手に届くところに収納BOXを置いておいた私が悪いので、すぐに謝る。この先輩は儚げな見た目とは裏腹に、怒らせるととても恐ろしいのだ。
「お前、何した?!」
「少し足を凍らしただけだよ。割れるから無駄に動かない方事をお勧めするよ。」
冒険者に足元からピキッと氷にヒビが入る音がする。ビビった冒険者に目もくれずクリス先輩はそうっと本棚から分厚い本を取るとパラパラとめくった。
「冒険者法第104条、依頼数に満たないものは一切受け取らない。冒険者法第13条、依頼の詐称は銀貨1枚から100枚の罰金、又は相当のランクに降格する。」
分厚い本は冒険者法全書という冒険者が守るべき法律である。これを守らなければ冒険者としてやっていけないのだ。
パラパラ見るだけで答えられるなら、きっと覚えているんだなと思った。流石は王都から派遣された正職員である。私は…ちょっと覚束ない。
「たかが青スライムの採取で愚かだね。見たところ金も無さそうだから、DランクからEランクに降格してあげよう。キオ、この愚者のカードを。」
「はいぃ!」
冒険者の緑のカードを渡し、代わりに冒険者法全書を受け取る。…もっと冒険者法を覚えろということだろうか。
クリス先輩が石の台にカードを置くと、カードが赤い光を放つ。
「俺のカードが…!」
光が収まったカードは緑から青色に変化していた。裏面は黒くなっている。
ギルドランクはSS、S、A、B、C、D、E、F、Gとなっていて、色は上から金、銀、赤、橙、黄、緑、青、紫、白となる。この冒険者はDランクからEランクに降格したのだ。そして裏面が黒くなったのにも理由がある。
一度冒険者法に違反するとカードの裏面が黒くなり、二度目の違反でカードの面も黒になるのだ。両面が黒くなったカードはもう使えない。冒険者ギルドから脱退するか、罪を償い最初からやり直すしかない。
「次はないよ。」
儚く微笑んだクリス先輩の前で冒険者が、崩れ落ちた。
「キオ、君は始末書だ。」
「はい。」
私も崩れ落ちた。
これから、弱小ギルドの受付係である私の話をしよう。
読んでくれてありがとうございました。