09-05
コノエは真剣な眼差しでサラを見つめ、改まってサラに聞いた。
「それとサラちゃん、死んだ後の体がどうなるかは分かってるよね 。私達もタダでこの薬を渡す訳にはいかないの」
「わかってます、臓器提供...ですよね。何の役にも立たなかったこの体が誰かの為になるなんて、素敵ですね」
「そう......。あなたの体が、病気で苦しむ多くの子供たちの命を救うの」
コノエは綺麗に揃えられた自分の前髪をそっと撫で、サラから目をそらす。気まずそうな、沈んだ表情をしていた。サラはコノエのその顔を見かねて、ぎこちなく笑いかけた。
「なんでコノエさんがそんな悲しそうな顔するんですか、私は大丈夫ですから」
「ああ、ごめんね。気を使わせる気はなかったんだけど...」
コノエは足元の黒いローファーを見つめた。左右の靴を擦り合わせると、脇に張り付いていた土埃がハラハラと落ちる。茶色く長い髪が視界に入り、風に靡いてゆらゆらと揺れる。
「...その、コノエさんはなんでこの仕事やってるんですか」
サラはふと思いついたかのように聞いた。コノエは、長い髪を耳にかけ、顔を上げる。
「...初めはそうするしか無かったから。でも今は...」
「今は?」
コノエは躊躇いつつも、小さな声を漏らした。
「...面白いから、とかかな。色んな人の辛い経験を聞いて、その人の命の天秤を傾ける。それって結構面白い」
「自分は辛くなったりしないんですか?」
「しないかな。むしろ、自分より不幸な人が沢山いるって思うと......安心する」
「...そんな事言っていいんですか」
サラはそう言って、クスッと笑った。
「多分ダメだと思う」
2人は口元を軽く手で押さえ、小さく笑いあった。