11-07
風は強さを増し、コノエの長い髪がなびく。木々はより一層ざわめき、公園にうち捨てられた空き缶はカラカラと鳴る。
コノエは諭すように問いかけた。
「サラちゃん、死ぬってどういうことかわかってる...?あなたがこの世から消えても、あなたに乱暴した父親も、母親も、のうのうと生き続ける。こんなつまらないことは無いよ」
「...私は、そうは思いません」
サラは小さく、しかし芯のある声で言った。コノエは思いもよらない返答に戸惑う。
「....どうして?」
「父親に乱暴されてた時......だんだん色んなことがどうでも良くなって、自分が自分から離れてく感じがしたんです。それで、自分ってもっと広いんじゃないかって...。ごめんなさい、よく分かんないこと言って」
「いや、分かるよ。.....ちゃんと分かる。」
コノエはゆっくりとサラの肩に手を伸ばしたが、サラの顔を見てそのまま巻き戻すように手を戻す。サラは話を続けた。
「死ぬものが弱者で、生きるものが強者っていう考えがそもそも間違いなんです。本来『生』と『死』は同価値なんです。たまたま私達が『生』という状態に傾いてるだけで...」
サラの口調は徐々にはっきりと、確かなものになっていく。サラの黒い瞳は、遠くの星々のうちのただ1つを見つめていた。