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影闘士 ―Shadow Slayer―  作者: 玉子川ペン子
第三章
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第八十七話 回想:十六年

 私は竜胆邸の中で産まれ育った。誰の腹から産まれたかは知らないが、おそらく連れてこられた、哀れな若い男の腹からだろう。つまり私も化け物の子なのだ。子どもは一日、十数人は産まれる。私と同じ日に産まれたのも、それくらいだったらしい。

 最初はこの邸の異常さに子どもは怯えるのだが、時間が経てば、この異常さを当然だと受け入れて、数多の母や姉と同じになっていく。そんな彼女達から見れば、私こそが異端に見えたに違いない。

 十八歳になった私は、買い物の時以外は竜胆邸から出られなくなった。消えてくれないざわめきに耳を塞ぎ、甘ったるい匂いに吐きそうになりながら、自分の生きる意味を問う日々が続いた。そんな日々が終わりを迎えたのは、買い物で竜胆邸から外に出た日のことだ。

 竜胆邸という苦しみから一時だけでも解放されて、私は鼻歌を歌いたくなるほど明るい気持ちになった。スキップでもしようかと足を動かした時、足がもつれて転びそうになったのだ。そこで助けてくれたのが、彼だった。お互いに一目惚れだった。

 私達は竜胆邸の誰にも気づかれないように、彼と連絡を取り合い、愛情を深めていった。そして買い物の時の順番が再び来た日、彼は私に言った。

「結婚しよう」

 そう言って彼は小箱から指輪を取り出した。私は嬉しくて涙が出そうになった。化け物の一人の私が、こんな普通の幸せを手に入れていいのかと。

 これから先、何があるかは分からないが、あまり怖くはなかった。

 私は竜胆邸との縁を断ち切り、普通の女として生きることを決意した。


 私達は竜胆邸から遠く離れた場所で暮らすようになった。竜胆邸の者達が私を追いかけてくる可能性があるのが怖いが、それよりも恐ろしいことがあった。私が化け物の血を確実に引き継いでいたら、彼の体で妊娠してしまう。そうすれば彼は、胎内の赤ん坊によって殺されることになる。それを彼に話すと、彼は怖がることなくにっこりと笑った。

「大丈夫。君は化け物なんかじゃないよ」

 何も根拠もない言葉なのに、私は彼が言うならそうかもしれないと思った。

 彼の言葉の通りだったのか、妊娠したのは私の方だった。これが当たり前なのだが、その当たり前を実際に見たことのない私にとっては不思議な感覚であり、命を宿した責任感が生まれた瞬間だった。

 そして何も問題なく、普通の女と同じように子どもを産んだ。今まで味わったことのない喜びと達成感が沸き上がった。それは彼も同じようだった。これでようやく、どこにでもいる普通の家族として暮らせるのだと私も彼も思っていたのだ。

 だが、竜胆は逃げ出した者を許さなかった。子どもが産まれた一か月後の夜、買い物をしていた私達を影世界に引きずり込んだ。そして竜胆が座する最奥の部屋の、さらに奥にある隠し部屋に私と彼を閉じ込めた。声も出せない、体も動かせない状態にして。そして竜胆は、私達の子どもを奪っていった。

「己の子が、最も望まぬことをする姿を見続けたら、そなた達がどうなるのか見物だな」

 そう言って哄笑しながら竜胆は去った。私達は悔しくて、情けなかった。大切な子どもを護れず、竜胆の罪に気づかないまま加担する姿を見ることしか出来ないのが。

 それから、十六年の月日が経過した。


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