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影闘士 ―Shadow Slayer―  作者: 玉子川ペン子
第三章
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第八十六話 闘う理由

 全ての影鬼を倒すのに、それほど時間はかからなかった。だが、最後の影鬼を倒しても、影世界が消滅する気配はない。それはまるで、過去に紫苑(しおん)一希(かずき)が闇鬼に体を奪われた時のようで、結羽は無意識のうちに双剣を掴む力が強くなる。

 その時、結羽達から離れた場所から、ひた、ひた、と足音が聞こえてきた。影鬼ではない。ならば、影操者か。足音がこちらに近づいてくる中、結羽達は警戒していた。やがて、その姿が見えてくると、結羽と拓士は瞠目する。それは、光流と呼ばれていた、あの雷の影闘士だった。結羽と拓士の反応から、未來と飛鳥、颯は向こうから来る人物が(くだん)の影闘士だと察した。

「あれが、拓士君を追い詰めた影闘士……」

 光流の手には既に片手剣が握られていて、左目は黄色になっている。また拓士を連れ去るつもりか。だが、その瞳は拓士ではなく、結羽を映していた。

「え……?」

 結羽が戸惑いの声を上げた瞬間、彼女の目の前に光流が現れ、片手剣を彼女に振り下ろす。結羽は慌ててそれを双剣で防ぐ。金属同士がぶつかる音が、影世界に響く。光流は他の誰にも目もくれず、結羽だけに攻撃をし続ける。

 一方で拓士達も、光流の思わぬ行動に困惑していた。あの時はあれ程拓士を連れ去ろうとしていたのに、今はまるでただ闘う為だけに結羽との剣戟を続けている。助太刀するべきだと思うが、今の状況だと彼女の邪魔になってしまうのは目に見えていた。

 何十回。何百回と繰り返された剣戟に終わりが見えたのは、たった数分後にも数十分後にも感じられた頃だ。光流の額から汗が流れ、体は疲労からふらついている。そして光流が手にしている片手剣は少し透けている。魔力の限界だ。

 結羽はそんな光流の片手剣を弾き飛ばす。金属音が響き、地面に落ちると同時にそれは消滅した。魔力と体力の限界で座り込んだ光流に刃を向けると、結羽は静かに尋ねた。

「……どうして私と闘ったの?」

 荒い息を吐きだしている光流は、呼吸を整えながら答えた。

「……闘って、みたかった、から」

「え……?」

 戸惑う結羽に光流はもう一度言った。

「お前と闘ってみたかったから。竜胆様が止めた相手が、どれだけ強いか確かめたかった」

 闘う理由もさることながら、雷の影闘士から出た名前にその場にいた全員が瞠目する。

「それがお前の主なのか? 俺を連れ去るよう命じたのも」

 拓士の問いに光流は頷く。

「ああ。竜胆様がひかるの主だ。竜胆様に魔力の高い男を連れてこいって言われた」

 結羽達は光流から発せられる情報に驚きつつも、その情報の信憑性がどのくらいのものなのか疑っていた。もしかしたら、自分達から逃れる為の嘘かもしれない。そんな結羽達の考えを察したのか、光流は不服そうな顔をする。

「……お前に闘いを挑んだのはひかるの意思だ。負けることも覚悟してた。ここで嘘をついて命乞いをするつもりなんてない」

 目を逸らさずに、はっきりと言っていて、結羽達は顔を見合わせる。嘘を言っているようには見えないし、逃げようとも不意打ちをしようとも考えていないようだ。

「……私もこういうの、あんまり好きじゃないし」

 結羽は光流に向けていた刃を引く。光流は顔には出さないものの、ほっとしているようだった。光流はそっと立ち上がると、影世界の先を指さしながら、結羽達の方を見る。

「ひかるについてきて。竜胆様のところに連れて行く。竜胆様を倒すんだろ?」

 光流の言葉に驚きながら、未來が問う。

「え? いいの?」

 若い男を連れ去る犯人が分かり、そこに案内してもらうのはありがたいが、自分の主を裏切るようなことではないのだろうか。

 未來の問いに光流は答える。

「いい。敗者は勝者に従うものだ。それに、あそこにひかるの居場所はないから」

 そう言った光流は微笑んでいたが、少し寂しそうだった。


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