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影闘士 ―Shadow Slayer―  作者: 玉子川ペン子
第三章
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第八十二話 閃光

 拓士が気づいた時には、影世界にいた。周囲を見回すが、近くにいたはずの結羽達の姿は無い。どうやら分断されたらしい。拓士は大剣を召喚して、自分を引きずり込んだ影鬼か影操者が姿を現すのを待つ。

 すると、ひた、ひたという裸足の足音が聞こえてきた。影鬼はこんな足音は出さない。影操者か。暗がりから足音が近づいてくると、バチバチッと火花が散るような音と金色(こんじき)の閃光が見えた。それは、近づいてくる人物が無造作に構えている琥珀(こはく)色の片手剣から発せられている。やがて、その人物の姿がはっきりと見えてきた。

 腰に届くほど長い黒髪を朱色の紐で結っていて、纏っている袴は上下共に髪と同じように黒い。女だろうか。

 その人物の瞳は右目が藍色で、左目は黄色だ。つまり、彼女は雷の影闘士だ。影闘士が影世界に影闘士を引きずり込むなど、聞いたことがない。

「……お前は、敵なのか?」

 拓士は雷の影闘士に探るように尋ねる。もしかしたら、彼女も自分と同じように影世界に引きずり込まれただけかもしれない。だが、拓士の声がまるで聞こえていないように、彼女は淡々と独り言を呟く。

「……水の影闘士。相性はひかるが有利。捕獲成功確率は、八十二パーセント」

 拓士は大剣を構え直す。目の前にいる影闘士が自分を影世界に引きずり込んだかは分からない。だが、彼女が自分の敵だということは、はっきりと分かった。こちらを睥睨(へいげい)する目に、殺意はないものの、明らかな敵意が宿っている。

「全ては、竜胆(りんどう)の一族が為に」

 来る。

 そう拓士が感じた時には既に影闘士は彼の目の前まで来ていて、その片手剣を躊躇(ためら)いなく振り下ろす。それを拓士は何とか受け止めるが、片手剣から流れてきた電流が拓士の腕に絡みついてくるように駆け抜ける。

「ぐっ……」

 水の影闘士である拓士は、通常のヒトよりも肉体が水に近い性質となっている。その為、雷にはかなり弱くなっているのだ。例え炎や風の攻撃がある程度の威力で放たれたとしても、拓士は容易く跳ね返すだろう。だが、雷はその半分の威力だとしても、彼の動きを一時的に止めることが可能になる。

 拓士の動きが鈍ったのを、雷の影闘士は見逃さなかった。片手剣の持つ手の力を込め、雷撃と共に拓士を力いっぱい薙ぎ払う。

「―――っ」

 拓士は跳ねるように影世界の地面を転がる。その体は電流の鎖で拘束されていて、痛みに苛まれながらも動けずにいた。そんな拓士の傍に雷の影闘士がやって来て、片手剣の切っ先を拓士の喉元に突きつける。

「水の影闘士、ひかると来てもらう―――」

 片手剣の切っ先から小さな電流が発生する直前、炎の一閃が雷の影闘士を焼こうとする。だが、それに気づいた雷の影闘士は一瞬で後ろに飛びのき、炎は空気を少し燃やすのに留まる。拓士の目の前には、双剣を召喚した結羽が立っていた。

「結羽……」

 いつもより弱々しい声に、結羽は拓士がかなり追い込まれているのを察した。そしてここまで拓士を追い詰めたのは、少し離れた場所にいる片手剣を持つ人物だ。瞳は血のように赤くはない。左目が黄色だということから、おそらく雷の影闘士なのだろう。

「どうして拓士を連れ去ろうとしたの?」

 結羽の問いに雷の影闘士は答えず、こちらを凝視している。持っている片手剣は警戒しているのを表しているかのように、金色の閃光が火花を散らしていて、臨戦態勢に入っているのが分かった。

「……火の影闘士。相性は等倍。殺して水の影闘士を捕獲できる確率は、五十五パーセント」

 結羽は双剣を構える。水の影闘士を捕獲。未來が言っていたのは、このことか。こちらに刃を向けている雷の影闘士が、拓士を連れ去ろうとしている理由は分からないが、自分の目の前でそんなことをさせるつもりはない。

 雷の影闘士が結羽に斬りかかろうとしたその時、影世界に女の声が響いた。

『―――光流(ひかる)、手を引け。その火の影闘士の相手は、そなたには荷が勝ちすぎる』

「……御意」

 女の声に光流と呼ばれた雷の影闘士は返事をすると、闇に溶けて消えた。その直後、影世界が消滅して、結羽と拓士は元の場所に戻ってきていた。既に二人以外は影世界から戻ってきていて、結羽の肩に体を預けている拓士を見ると、彼らは瞠目する。

「拓士様!? 一体何が……」

 二輪草(にりんそう)飛鳥(あすか)が声をかけた時、拓士は痛みに顔をしかめる。拓士の体には電流の鎖が絡みついていて、それを見た未來はすぐに槍を召喚した。そしてその槍を鎖に当てると、電流の鎖は小さな音を立てて消滅する。未來は地の影闘士だ。地は雷に属性で有利で、雷の攻撃を打ち消すことができるのだ。

「……すまない、助かった」

 雷の呪縛から解放された拓士は未來に礼を言うと、結羽から離れて自力で立つ。結羽の肩を借りなくても平気にはなったが、それまでに負ったダメージまでは消えていない。光流が拓士を連れ去ろうとした理由、そしてその背後にいると思われる女。それらの謎を残したまま、結羽達は下野(しもつけ)心美(ここみ)達夫婦のいる病院に向かった。


登場人物の花言葉

竜胆:「貞節」「誠実」「悲しんでいる時のあなたが好き」

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