第七十八話 復讐者の果て
「結羽ちゃん!」
「お姉様! 大丈夫ですか!?」
未來達が結羽達のもとに駆け寄ってくる。結羽が怪我をしていないのを見て、彼らはほっと息を吐きだす。結羽と怜治が津波に飲み込まれた瞬間、拓士達はすぐに助けに行こうとしたという。だが、その直後に砂浜に多数の影鬼が現れて、なかなか助けに行けなかったそうだ。影鬼の騒ぎの影響か、砂浜から人はほとんどいなくなっていた。
あれ程荒れていたのが嘘のように穏やかな海を、目を覚ました怜治が呆然と見つめている。その瞳から狂気は消え失せ、虚無に染まっている。
「……僕は今まで、何をしてきたのでしょうか」
寿命が尽きて死んだことを納得できず、生き残ったからという理由だけで彼女を仇として殺し、自分も死のうとしていた。だが、真犯人と遭遇し、それも彼女によって斃された。復讐という名の生きる目的を失い、残ったのは無実の彼女を傷つけていたという、あまりにも愚かで憐れな復讐者の成れの果てだけだった。
怜治は結羽に向き直ると、彼女に頭を下げた。
「今まで、すみませんでした」
結羽達は怜治の言葉と態度に瞠目する。彼が他人に謝る姿を見たことがないというのもそうだが、その弱々しい姿は、先程までとはあまりにも違い、困惑してしまう。そして怜治はさらに続ける。
「謝って済むものではないことは、分かっています。僕のせいで、何年もあなたを苦しんだことも理解しています。なので……あなたの気が済むまで、僕をどうにでもしてくれて、構いません」
僕にはもう、生きる意味なんてありませんから。
切なく微笑む怜治に結羽達は、彼が早く由紀のもとに逝きたいと望んでいるのだということを察した。確かに、結羽は怜治によって何年も苦しみ、傷ついた。由紀の仇であるスカビオサを倒したからといって、それがなかったことになるわけではない。
だから、結羽には怜治を責める権利がある。結羽が怜治に何をしても、誰も文句は言わないだろう。だが、そんなことを結羽は望んでいない。
結羽から手を伸ばされ、怜治は殺されることを覚悟して目を閉じた。だが、いつまで経っても首に手がかけられることも、刃に貫かれる痛みも感じない。そっと目を開けると、結羽は怜治に手を差し伸べていた。その手のひらに乗せられているのは、スカビオサから取り戻した、由紀の髪飾りだ。彼女の名前にちなんだ、雪の結晶をかたどったもの。
困惑した怜治は結羽と髪飾りを交互に見つめて、何も言えずにいた。そんな怜治に結羽は告げた。
「これは、怜治君が持っていて。私よりも、恋人のあなたが持っている方がずっといいよ」




