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影闘士 ―Shadow Slayer―  作者: 玉子川ペン子
第一章
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第七話 病院は抜け出すもの

 結羽が怪我をしてから1週間が経過していた。ベッドで横になっている結羽は病室の窓から外を見て、ため息をついた。

「……暇だなぁ」

 ここでは、することがほとんどない。夕方に病室に寄ってくれる未來が、授業のノートを見せてくれて、それを写したらもう、やることがなくなる。怪我人だからしょうがないのだろうけど、何も出来ない時間が辛い。

 傷の痛みは心美のおかげでほぼない。昨日、早めに退院させてくれないかと心美に頼んだのだが、傷痕を残させたくないから駄目だと言われてしまった。それでもあと1週間もベッドで横になり続けるのは嫌だ。

 どうしようかと結羽は考えを巡らせる。

 心美が病室に来るのは包帯を替える朝と食事の時間。未來が来るのは夕方。朝食からしばらくは、この病室に誰も来ない。そして、ここは1階だ。

「……よし」

 明日、病院を抜け出そう。


 翌日、結羽は朝食を食べた後に病院から抜け出そうとしていた。朝食を食べ終えて、心美が病室から出る。今だ。結羽はハンガーにかかっている制服に手を伸ばす。

「あっ。結羽ちゃん、ちょっといい?」

 心美の声が聞こえ、病室の扉がゆっくりと開けられる。結羽は慌てて制服から手を放してベッドに戻る。

「は、はい。いいですよ」

 心美が話している中、結羽は病院を抜け出そうとしたことがバレずに済んで、気づかれない程度に軽く息を吐きだした。


 その翌日、結羽は今度こそ病院を抜け出そうとしていた。

朝食を食べ終えて、心美が病室から出ていく。結羽は病室の扉の近くまで行って、耳を澄ます。心の足音が遠のき、何の音も聞こえなくなる。

 そこで結羽は急いで制服に着替えて、右手にカバンを持ち、左手にはローファーを持つ。出来るだけ足音を立てずに窓まで進み、窓を開けて外に出た。ローファーを履いた結羽は、心美に気づかれていないか確認して、学校へと駆け出した。

 学校に着き、教室に入ると、まだホームルームが始まる前でほっとする。そして、結羽に気づいたクラスメイト達が彼女に声をかける。

「おはよう! もう怪我は大丈夫なの?」

「大怪我したって聞いたけど」

 クラスメイト達の温かさに結羽は嬉しくなる。ここの人達は本当に優しい。

「うん! もう平気!」

 そう微笑んで、結羽もクラスメイト達の輪の中に入って会話をし始める。話をしている中、結羽が視線を感じて後ろを振り向くと、拓士と目が合った。軽く手を振ると、拓士はすぐに目を逸らした。最近やっと分かってきたのだが、拓士が目を逸らすのは、ただの照れ隠しだ。

 そしてその数分後、教室に先生が来て、ホームルームが始まる。結羽は、久しぶりの学校がとても楽しみだった。


 それからしばらく時間が経って、10時を少し過ぎた頃、心美は結羽がいる病室の前まで来ていた。

「結羽ちゃん、ちょっといい?」

 心美が扉の前で声をかけるが、返事はない。

「結羽ちゃん? ……寝ているのかしら? 入るわよー」

 心美が病室の扉を開けると、そこに結羽はいなかった。心美が慌てて結羽を探していると、ベッドの横のサイドテーブルに、書き置きが残されていた。

 

怪我を治していただき、ありがとうございました。 胡蝶蘭結羽


そこで心美は、結羽が病院から抜け出したことを知った。彼女はすぐにポケットに入れていたスマートフォンを取り出すと、未來にメッセージを送った。

未來は通知に気づいてスマートフォンをポケットから取り出す。母からメッセージが届いている。メッセージにはこう書かれていた。


結羽ちゃんが病院から脱走。学校にいると思われます。すぐに連れ戻して!


未來は了解、と返信すると、結羽を探し始めた。



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