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影闘士 ―Shadow Slayer―  作者: 玉子川ペン子
第二章
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第七十二話 けじめ

 結羽が話し終わった後、しばらく病室に沈黙が降りる。やがて、結羽はぽつりと呟いた。

「……私が悪いんだよね」

「……え?」

 飛鳥は思わず聞き返していた。彼女は何を言っている。

 結羽は自嘲気味の笑みを浮かべると、誰と目を合わせるわけでもなく、ただ淡々と続ける。

「……私だけが生き残ったから。私が由紀を見殺しにしたから。大切な人を亡くしたら、怒るのは当たり前だよ。だから、これは当然の報い―――」

「そんなことない!」

 強い口調で拓士が、結羽の言葉を遮る。

「結羽は何も悪くない。生き残ったらいけない理由なんてあるはずがないんだ!」

「そうよ! だからそんなこと言わないで!」

「結羽ちゃんが友達も助けようとしたのは、とっくに分かっているから!」

「だから生きてください、お姉様!」

 みんなから言われた言葉に、結羽は目頭が熱くなる。この罪は赦されたわけではないのに、まるで赦されたように感じてしまう。あれほど重苦しかった心が、ほんの少しだけど軽くなった気さえする。

「……ありがとう、みんな」


 その日の夜、拓士は自室のベッドで横になりながら、あることを考えていた。海難事故で亡くなったという、結羽の親友だった藤見由紀。この世界の神は「命の管理人」という役割を担っていて、突然の事故や事件、災害によって、余命が残っているにもかかわらず亡くなってしまった者を、再び現世に呼び戻すことが出来る。それだと、海難事故で亡くなった由紀は、その時点で寿命が尽きていた、ということになる。

 平均寿命が二百歳を超えた現代で、それはあり得るのだろうか。確かに、寿命は誰かが決められるものではない。だが、十歳で寿命が尽きたという話を聞いたことは一回もない。

 そこで拓士は瞠目する。寿命が尽きる以外で、死んでも肉体が残る方法があったことを思い出した。影闘士だから、忘れていた。

「まさか……」

 影操者が由紀を殺したのか。影闘士ではない者なら、影操者に殺されても肉体は残る。辻褄は合うのだ。だが。

「……だったらなんで」

 その影操者は、殺した彼女を捕食せずに棄てたのだろうか。


 翌朝、結羽のもとに少し慌てた様子の拓士達が来た。ベッドから上体を起こしていた結羽は、首を傾げた。

「みんな、どうしたの?」

 すると飛鳥が、持っていた大きめの白い箱をベッドの横にあるサイドテーブルの上に置く。その箱には紙が張り付けられていて、「胡蝶蘭結羽様へ」と書かれていた。

「……今朝、ここに来る前にお姉様のご自宅に寄ってみたら、玄関前にこれが置いてあったのです」

 箱のふたを開けると、白いロングワンピースと白いサンダルが入っていて、その上には手紙が添えられている。結羽が半分に折りたたまれていた手紙を開いて、読んでみる。


『手首の怪我の状態はいかがでしょうか。痛み続けているのなら幸いです。

七月××日の正午に、彼女を見殺しにした海水浴場にて、あなたをお待ちしております。

その際には、この手紙の下にある服と靴を身に着けてお越しください。     水仙怜治』


 結羽の手から、手紙がかさりと音を立てて落ちた。結羽の体は恐怖で震えていた。もう逃げられない、ということは怜治と再会した時から分かっていた。だが、頭では分かっていても、体が追い付いていない。

「結羽!」

 誰かが名前を呼び、震える体を抱きしめてくれる。小学生の時は、父と母が助けてくれたが、今はいない。助けを求められるほど、近くにいない。

「大丈夫。俺達がいる」

 拓士の声が、みんなの温もりが結羽の震えを少しずつ止めていく。父も母もここにはいないけど、拓士達が自分の見えるところにいる。すぐ手の届くところにいる。結羽は目を閉じると、深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。再び目を開けた時、結羽の瞳には確固たる意志が宿っていた。

 結羽は箱に入っている服を手に取る。これらを着てくるようにと言った怜治の意図はまだはっきりとは分からない。それでも。

「私、怜治君とけじめをつける」

 七年前から続く因縁に、決着をつけるのだ。


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