第四十九話 最良の方法
「―――その時、私は影鬼を倒しに外に出ていて、それを知った時にはもう、間に合いませんでした。……今でも、後悔しています。あの日、自分が家にいれば、花梨は死なずに済んだのではないか、と」
結羽は何も言えなかった。彼らにそんな過去があったなんて。飛鳥が自分に対して、警戒するような態度を取っていたのは、女性が兄を傷つけて、母が死ぬきっかけを作ったからなのかもしれない。
「……何故、私に二人を託す必要が?」
恐る恐る尋ねると、夕顔は儚い笑みを浮かべた。
「私が、もうすぐで消滅するからです」
「え……」
思わぬ答えに、結羽は絶句する。
「悪魔は大切な存在を亡くすと、数年のうちに力を暴走させて死にます。影闘士になっても例外ではありません」
そして胸に手を当てて続ける。
「感じるのです。日増しに自分の中にある悪魔の力が、増幅しているのを。それが暴走してしまえば、周囲にいる者全てを滅ぼしかねない恐ろしい力です。今はまだ抑えられていますが、長くはもたないでしょう」
結羽が何も言えない中、夕顔は更に続ける。
「なので明日、私は影世界に入って影鬼に殺されようと考えています」
「そんな……! 他に方法はないんですか?」
苦しそうに顔を歪める結羽につられて、夕顔も泣きそうな笑みになる。
「影鬼に殺されれば、私の家族から私の記憶が消えて、颯と飛鳥が逃げる必要がなくなる。誰も傷つける必要がないので、これが最良の方法なのです」
夕顔は、誰も傷つけたくないのだ。自分を連れ戻そうとする、家族でさえも。だから、自分だけが犠牲になる方法を選んだ。だが、それはあまりにも哀しい選択だった。
「出会って間もない貴女に、こんなことを頼むのは心苦しいのですが、よろしくお願いします」
ここまで話を聞いて、更に頭を下げられたら、頼みを聞くしかないだろう。
「……分かりました」
振り絞るような声で結羽は返事をした。