第四話 能力
同時刻、拓士も別の場所で影世界に引き込まれていた。
「―――お久しぶりですね、水の影闘士」
「またお前か」
拓士の視線の先には、右腕を失ったロベリアがいた。
彼は張り付いた笑みを浮かべながら、短剣を召喚する。
「あの時は少し油断してしまいました。なので、今回は貴方を本気で殺します」
「しつこい奴だな。さっさと終わらせてやる」
拓士は心底うんざりした様子で、大剣を召喚した。
結羽と未來は、拓士とは別の影世界で大量の影鬼と戦っていた。
「本当にしつこい奴らね! 刺しても刺してもキリが無い!」
左目が明るい紫色になっている未來は、辟易しながら青紫色の槍を影鬼に突き刺す。
『ギャアアアアア!!』
影鬼は、耳障りな奇声をあげながら消滅していく。
なかなか減らない影鬼。だが、そこまで強いというわけでもない。そう、まるで……。
「まるで、足止めされているみたい……」
どこかに味方が来るのを邪魔するように。
結羽の呟きを聞いた未來は瞬きをする。
「足止め? 何の為に?」
未來の言葉に、結羽ははっとする。
「だ、だよね? 何言っているんだろう、私」
結羽は慌てて自分の言ったことを否定した。
先程呟いた時、頭に浮かんだのは拓士だった。何故かは分からない。だが、拓士のことが心配だとは未來に言えない。
未來は数か月前まで拓士と組んでいたそうだ。だが、そりが合わなくなって未來の方から拓士と手を切ったのだという。ここで拓士のことを言ったら、未來を怒らせてしまうかもしれない。
そんなことを考えつつ、何とか結羽と未來は影鬼を全て倒すことが出来て、影世界が消滅し始める。
「やっと全部倒せたね。……結羽ちゃん?」
未來の横にいる結羽は、遠くの方を真っ直ぐに見ていた。結羽の耳は未來の声を素通りして、額には冷や汗が浮かぶ。
拓士が危ない。結羽の頭の中に警鐘が鳴り響く。
影世界から元の場所に戻ってきた結羽は、どこかに向かって駆けだした。
結羽と未來が影鬼と闘っている間、拓士はロベリアとの一騎打ちをしていた。
拓士の大剣を、ロベリアはひらりひらりと躱していく。
「遅いですよ。疲れてきましたか?」
ロベリアの嘲るような声に、拓士は舌打ちをする。
「くそっ……逃げ足の速い奴だ」
拓士は飛び退き、着地した瞬間に親指をがりっと噛んだ。
そこから滲んだ血を大剣に付けて、垂直に振り上げた。影闘士の血を武器に付けることによって、魔力が増強されるのだ。
拓士の頭上に無数の大剣と同じくらいの氷柱が出現する。
「死ね」
拓士が大剣を振り下ろすと、その氷柱が一斉にロベリアの体に突き刺さって、彼の姿が見えなくなる。
「終わりだな」
拓士がロベリアに背を向けた瞬間、音も無く氷柱が消滅した。その中心には、無傷のロベリアが嗤って立っている。
ロベリアは残った左腕を上に突き出し、拓士と同じように無数の氷柱を出現させる。
そしてそれを拓士に向かって放つ。
肉を貫く音が、影世界に響いた。