第四十六話 回想:純血主義
純血主義。他の種族と交わらず、純粋な血族を絶やさず数を維持することを是とした思想だ。結婚も同種族しか許されず、純血主義の多くは幼い頃から結婚相手が決まっている。夕顔も、そんな純血主義の一族だった。純血の悪魔であった夕顔の兄と姉は既に結婚していて、彼も決まった相手と結婚する予定だった。そんな時に出会ったのが、純血の天使である花梨だ。自分とは違うクリーム色の髪、クリーム色の瞳。全てを包み込むような優しい笑顔に夕顔は恋をした。
花梨にも既に結婚相手はいたものの、夕顔と花梨は次第にお互いのことを好きになっていった。家族に気づかれないように、こっそりと会っては互いに愛を深めていった。もしも気づかれたら、きっと引き離されて、二度と会えなくなる。家族の影に怯えながらも、二人は会うことをやめなかった。
夕顔と花梨が出会って五年が経ち、二人は二十歳になっていた。彼らの一族は、二十歳になれば結婚する決まりになっていた。彼らの結婚も、数日後に迫っていた。
「わたくしは嫌です! 好きでもない方と結婚するなんて……」
体を震わせる花梨を夕顔は抱きしめた。
「私だって嫌に決まっている! ……二人で逃げよう。あいつらが追ってこない場所まで」
夜の暗い道路の一角で、夕顔と花梨は駆け落ちすることを決意した。
その翌日の、誰もが寝静まった真夜中に、夕顔と花梨はそれぞれの家を抜け出した。待ち合わせ場所で合流した彼らは、誰にも気づかれないように静かに駆け出した。どう頑張っても、いずれ家族は自分達が駆け落ちしたことに気づいて、自分達を連れ戻そうとするだろう。だから、出来るだけ遠くへ。連れ戻すのを諦めるくらい遠くへ行かなくては。
夕顔と花梨はホテルやネットカフェを転々としながら、目的地を決めずにとにかく遠くを目指していた。そして駆け落ちをして約三か月後、ようやく落ち着ける場所を見つけて、小さなアパートの一室を借りて暮らすことにした。
そこでの日々は、決して裕福とは言えないが、穏やかで幸せだった。だが、それは容易く崩れ去った。
登場人物の花言葉
花梨:「唯一の恋」