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影闘士 ―Shadow Slayer―  作者: 玉子川ペン子
第二章
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第四十四話 ある家族

 颯が同じ学校の同級生だと知ってから数日後の休日、結羽は近所で見回りがてら散歩をしていた。すると、前方に影世界に引きずり込まれそうな男性がいた。結羽は双剣を瞬時に召喚し、影鬼を切り裂いた。

 そして男性の無事を確認して、結羽はほっと息を吐きだす。良かった。無事だ。結羽が安心して双剣を消すと、立ち上がった男性が結羽に笑いかけた。

「……ありがとうございます。おかげで助かりました」

 男性の見た目は二十代前半くらいだ。だが、この世界で生きるほとんどの者は二十歳以降になると肉体の成長が緩やかになる。だからこの男性の実年齢はもう少し上だろう。黒髪で暗い紫色の瞳を持つその男性は地面に置かれていた買い物袋を持ち、結羽に会釈をすると道路を歩いていく。だが、その足取りは覚束なく、今にも転びそうに見える。男性の持っている買い物袋は不安そうに揺れている。

 結羽は思わず男性に声をかけていた。

「その買い物袋、お持ちしましょうか?」


 結羽は男性と共に、下野夫婦の病院より少し先にあるアパートの一室に来ていた。

「置くのはここで良いですか?」

 結羽が尋ねると男性は頷く。

「影鬼から助けて頂いて、さらに荷物を持たせてしまって。何から何まですみません……」

「いいえ。気になさらないでください。好きでやっているので」

 そして帰ろうとする結羽に、男性はせめてお茶を飲んでいってほしいと引き留める。結羽は男性の言葉に甘えて、リビングの椅子に座って待つ。すると、玄関のドアが開く音がして、誰かが部屋の中に入ってくる気配がした。そしてその足音は、真っ直ぐこちらに向かって来ている。

「父さん、ただいま……って、結羽ちゃん? どうしてここに?」

 リビングに来た颯が、結羽を見て目を丸くしている。そして颯のすぐ後に来た飛鳥は、結羽の姿を見て眉を吊り上げる。何も言わないが、結羽に対して敵意があるのは分かった。

「影鬼に襲われそうになったところを、この子に助けてもらったんだ」

 結羽に湯吞み茶碗に入ったお茶を差し出しながら、男性が言う。

「紹介が遅れましたね。私は夕顔(ゆうがお)と言います。……息子と娘には面識があるようですね」

「私は胡蝶蘭結羽です。二人とは、半月前に偶然知り合って……」

 すると夕顔は記憶を手繰るように顎に手を当てる。そして何かを思い出したように「あっ」と小さな声を上げる。

「前に颯が話していたのは貴女のことだったんですね。あの時は飛鳥を助けていただき、ありがとうございました」

 夕顔は結羽に軽く頭を下げて、優しげに微笑んだ。


 夕顔は「お菓子もぜひ食べていってください」と結羽に言ったが、結羽はそれを丁重に断った。飛鳥が「さっさと帰れ」と結羽に対して無言の圧力をかけていて、ここで逆らったらどうなるか分からない。触らぬ飛鳥に何とやらだ。

「―――お邪魔しました」

 結羽は夕顔達に軽く会釈をすると、背を向けて歩いて行った。彼女の背を見送った後、飛鳥は夕顔を少し非難するような目で見る。

「お父様。影鬼から助けてもらったからと言って、見知らぬ女性を家に上げるのはどうかと思いますよ?」

 夕顔は安心させるように飛鳥の頭を撫でる。

「大丈夫さ。彼女は“あの人達”とは違うから」

 あの人達、という言葉に飛鳥は顔色を怒りに染めて、俯く。

「……女性なんて、どうせみんな同じです。誰も信用出来ません……」

 感情を押し殺した声に、夕顔も颯も、何も言えなかった。


登場人物の花言葉

夕顔:「夜」「儚い恋」「罪」

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