第四十一話 忘れない
翌日、拓士と未來が学校に行くと、2人は愕然とした。学校からは既に佳奈がいた証は全て無くなっていた。上履きも、荷物もなければ、出席で名前を呼ばれることもない。“柳佳奈”という存在が最初から無かったかのように、学校はいつも通りの日常を送っている。
拓士は両親の消滅によって、それを経験はしたが、大勢の者に忘れられるというわけではなかった。未來も誰かが消滅したことは何度も能力で視てきたし、それによってその誰かが存在を忘れ去られてしまうのも見てきた。だが、ここまで親しい仲間を消滅によって喪ったことは初めてだった。
彼らは“影闘士が消滅すれば、影闘士以外の者はその記憶を失う”。それは知識や経験である程度は分かっていた。だが、それを本当の意味では分かっていなかった。佳奈という同じ学校の同級生である影闘士の消滅によって、“影闘士以外の者はその記憶を失う”という本当の意味を、思い知らされたのである。
それから1か月が経過して、1月の終わりに差し掛かっていた。結羽の怪我は完治して、彼女は拓士と未來と共に、ある場所に来ていた。そこは墓地だった。だが、普通の墓地と違い、石だけではなく、融けない氷や崩れない土で出来た墓石も数多くある。つまり、ここは影闘士の墓地なのだ。
3人は墓地を歩いて、ある墓石の前で足を止めた。それは氷で作られていて、正面には「柳佳奈」と彫られている。そこに結羽がカランコエの花束を供える。小さなオレンジ色の花が、その場の色彩を明るくした。
「……遅くなっちゃってごめんね」
淡い笑みを浮かべた結羽は、墓石に向かって語りかけるように言う。
「たとえ他のみんなが佳奈ちゃんのことを忘れても、私達は絶対に忘れないから。今度来た時は佳奈ちゃんに良い報告が出来るようにするね。拓士の大切な人を殺した人も倒して、私のお父さんとお母さんを取り戻して、佳奈ちゃんや一希の体を奪った闇鬼も倒すから待ってて。……じゃあ、また来るからね」
結羽達は立ち上がって、墓地から去っていった。墓石の前では、カランコエの花が風にふわりと揺れていた。
登場する花言葉
カランコエ:「幸福を告げる」「たくさんの小さな思い出」「あなたを守る」「おおらかな心」