第四十話 予感
その少し前、拓士は雪の降り積もる道を、コートのポケットに手を突っ込んで歩いていた。何となく歩いている時、ふと思い出す。そういえば、ロベリアによって結羽が重傷を負って、自分が半べそをかいていた公園は、この近くだったな、と。久しぶりにあの公園に行ってみようかと思った時、何かを一瞬感じた。
悲しくて、切ない別れを予感させる何かだ。
そんなものを行こうとしていた公園から感じて、拓士は駆け出した。公園に着くと、その真ん中で、誰かがうずくまっている。後ろ姿ですぐに分かった。結羽だ。長い髪の間から、赤いものが見えて、拓士は結羽のもとに慌てて駆け寄った。
結羽は拓士が近くに来ても、無反応だった。
「……結羽?」
拓士が躊躇いがちに声をかけると、結羽はゆっくりと振り返った。右胸の辺りを赤く染めた結羽は大粒の涙を流していた。
「……拓士、佳奈ちゃんが……」
結羽の手のひらから、小さな光の粒子が空に舞い上がって消えるのが見えた。それを拓士は、4年前に見たことがある。拓士は結羽の言葉の意味を察して、彼女を強く抱きしめた。
その頃、病院で両親の手伝いをしていた未來の脳裏に突然、ある映像が流れ込んできた。結羽に馬乗りになった佳奈が、己の体に刃を突き刺して、やがて消滅する。
「……え?」
何かの冗談かと思った。だが、未來は分かっていた。この力は、絶対に嘘をつかない。
「そんな……佳奈ちゃん……」
未來は茫然と呟いて膝から崩れ落ちた。
「未來!?」
心美の声を聞きながら、未來は泣いていた。涙や嗚咽を抑えるように顔を覆う。この能力は嫌いだ。覚悟する間もなく、突然消滅の瞬間を視せてくる。こちらの気持ちなど考えてもくれない。ここまでこの能力を恨んだのは初めてだ。
それから未來達のもとに、結羽を抱えた拓士が来たのは、その数分後だった。