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影闘士 ―Shadow Slayer―  作者: 玉子川ペン子
第一章
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第三話 誕生

 新たな影闘士が誕生した。

 そのことに少なからず動揺しているロベリアの隙を、拓士は見逃さなかった。

拓士はロベリアとの間合いを一気に詰めて、それに気づいて避けようとしたロベリアの右腕を斬り落とした。

 ロベリアの絶叫が影世界に轟き、結羽は思わず耳を塞ぐ。切断面からは人間と同じ真っ赤な血が噴き出している。

「影闘士……っ!」

 ロベリアは怒りの形相で拓士を睨み、姿を消した。

「ちっ……逃げたか」

 拓士が舌打ちした後、二人はいつの間にか元の場所にいた。ロベリアがいなくなったことにより、影世界が解除されたのだ。それと共に二人の左目は元の色に戻り、大剣と双剣も消える。

 そして拓士は結羽をちらと見る。結羽もその視線に気づき、拓士を見た。

「……」

 拓士はすぐに目を逸らして、その場から去って行った。影世界で知った情報があまりにも多すぎて、未だに頭の整理が出来ていない結羽は、彼を見送ることしかできなかった。

 

 同時刻。とあるマンションの一室で、眼鏡をかけた少女がふと顔を上げた。

 大きな魔力の爆発を感じた。炎のようだ。しかも、かなりの力を持っている。

 少女は口元に笑みを浮かべた。

「新たな影闘士の誕生、か。……久しぶりに学校に行こうかな」


 翌日、結羽が登校すると、校門を過ぎたところで、眼鏡をかけた女子生徒に声をかけられた。長めの黒髪を後ろで結んでいる子で、結羽のことをじっと見ている。

 誰だろう。同じクラスの子ではなかったと思う。違うクラスか、先輩かも分からない。

 どう対応しようか考えあぐねている結羽に、その女子生徒は微笑んで言った。

「初めまして、あたしは下野未來(しもつけみらい)。よろしくね!」

 彼女の名字に結羽ははっとした。

「もしかして、影闘士の?」

 結羽の言葉に心来は笑顔で頷いた。

「うん。私は地の影闘士よ。新たな炎の影闘士さん」

 未來の言葉に結羽は瞠目した。

「なんで知っているの?」

 驚く結羽に未來は微笑む。

「感じるのよ、新たな影闘士が覚醒した瞬間にその魔力を。影闘士だったら皆そうよ」

「そうなんだ」

 結羽が感心していると、未來が結羽に顔を近づけて囁いてきた。

「ねぇ、あたしと組まない?」

「え……?」

 未來からの突然の申し出に、結羽は戸惑う。

 どうして自分を誘ったのだろう。影闘士になったばかりで、足手まといにしかならないと思うのだが。

「あなたから感じた魔力は相当のものだった。影鬼との闘いを重ねていけば、もっと強くなれると思うの。まぁ、ただのお節介なんだけどね」

 未來はそう言って少し頬を赤く染める。結羽は一瞬戸惑ったが、断る理由は一つも無い。

 前から影闘士をしている彼女なら、影闘士のことについても、あの影操者についても詳しく知っているだろう。それに、影操者の主について分かれば、父と母の仇を討てるかもしれない。

「ぜひ、お願いします!」

 結羽は二つ返事で頷き、頭を下げた。


 影操者は百年ほど前から突然現れた存在で、彼らのことは影闘士と神しか知らない。影鬼を使役し、人間を捕食していると思われる影操者の目的も人数も未だに分かっていない。彼らの特徴は、誰もが血のように真っ赤な瞳を持ち、一人一人異なる能力を持っているのだという。


 結羽と未來が共闘するようになって一週間が経過した。最初は闘いに慣れていなかった結羽だったが、徐々に闘い方が分かるようになってきて、コツを掴んできた。

 授業が終わり、結羽と未來は一緒に学校を出た。二人の家の方向が同じで、影鬼を倒した後は途中まで一緒に帰っているのだ。

 そんないつも通りの帰り道、未來は結羽に尋ねた。

「ねぇ。結羽ちゃんって、一人暮らしなんだよね」

「うん、そうだよ」

「今から結羽ちゃんの家に遊びに行ってもいい?」

 突然の未來の言葉に、結羽は少し驚いた。

「いいけど……急にどうしたの?」

「なんか、結羽ちゃんが家に入っていくとき、ちょっと寂しそうなんだよね」

 結羽ははっとした。自分はそんな顔をしていたのか。あの時からずっと周りの人に心配をかけないように明るく振る舞っていたつもりだったが、一人になった瞬間に油断して顔に出ていたようだ。

「だから心配になっちゃって。あたしも一人暮らしだから、行っても問題ないし」

 結羽は未來に心配をかけていたことに申し訳なさを感じつつ、一緒にいられる時間が長くなることを嬉しく思った。

「……ありがとう。じゃあ行こっか!」

「うん!」

 その時、結羽と未來の足元の影が形を変え、真っ黒な穴のようになる。

「これって―――」

 影世界、と言う前に結羽と心来の姿は影に飲み込まれて消えた。


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