第三十七話 雪を染める
12月の後半になり、結羽達の通っている学校は冬休みに入った。雪は連日降り続き、10センチ程積もってもまだ雪は舞っている。
食材の買い物をしたスーパーからの帰り道、結羽は少し重い買い物バッグを手に歩いていた。信号待ちをしていると、背後から声をかけられた。
「あれ? 結羽さんですか?」
「あ、佳奈ちゃんも買い物?」
結羽の後ろにいた佳奈は、結羽の隣に来る。佳奈の手には結羽と同じように重そうな買い物バッグを持っていて、彼女の鼻は寒さから少し赤くなっている。
「はい。母から買い物を頼まれまして」
やがて信号が青に変わり、2人は横断歩道を渡る。しばらくは同じ道なので、途中まで一緒に帰ることになった。
結羽と佳奈が何気ない会話をしながら近道である公園を通り抜けようとしていると、2人から少し離れた場所に、今にも影世界に引きずり込まれそうな人がいた。佳奈は拳銃を召喚すると、結羽に買い物バッグを預ける。
「行ってくるので、荷物を見ててください!」
そう言って佳奈は影世界に入っていった。そのすぐ後、今度は別の人が影世界に引きずり込まれそうになっていた。結羽は双剣を召喚するが、2つの買い物バッグをどうしようか少し迷った。
「……すぐ倒せば大丈夫だよね」
そう自分に言い聞かせながら、近くにあったベンチに買い物バッグを置いて、影世界に入っていった。
急いで影鬼を倒して元の場所に戻ってきた結羽は、助けた人を見送るのもそこそこに、ベンチに置いていた買い物バッグの中身を確認する。そして安堵する。良かった。何も無くなっていない。
だが、佳奈はまだ戻ってきていないようだ。結羽は寒さでかじかむ手を擦りながら、佳奈を待った。それから約5分後に佳奈は影世界から戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「お疲れ様。じゃあ、帰ろっか。そこに荷物あるからね」
結羽はそう言ってベンチの上を指す。
「あ、はい。ありがとうございます」
佳奈は結羽に礼を言うものの、何故か買い物バッグを持とうとしない。
「佳奈ちゃん? どこか怪我でもした?」
不思議に思った結羽が声をかけた時、佳奈が右手を結羽に向けて上げる。その手には拳銃が握られている。それに結羽が気づいた瞬間、銃声が響いた。何が起きたか分からなかった。
結羽は少し眩暈がしてふらつく。目線を落とすと、右胸の辺りに赤いものが広がっていて、それが足元の雪に服を伝って落ちていた。
「え……」
視界がぐらりと揺れて、結羽は思わず片膝をつく。顔を上げて佳奈の姿を見た結羽は信じられないという表情で彼女に呟いた。
「……どうして……?」
佳奈の右目は、闇鬼に乗っ取られた一希と同じように真っ黒に染まっていた。