第二十九話 双子の影操者
それから1か月が経過し、学校は夏休みに入った。その間も特に大きな事件もなく、やがて夏休みは終わり、9月の半ばに差し掛かっていた。
結羽達4人はいつものように校舎前で影鬼を倒した後、並んで下校している。学校から歩いて数分後、それは久しぶりに現れた。
突然、彼らの足元の影が形を変え、真っ暗な穴になる。声を上げる間もなく、それは彼らを一気に飲み込んだ。
影世界に降り立った直後、結羽達はすぐにそれぞれの武器を召喚して、周囲を警戒する。自分達を一気に引きずり込んだところから、おそらく影操者がいるはずだ。その時。
「―――影闘士の皆さん、影世界にようこそ!」
「―――影闘士の皆さん、影世界にようこそ!」
この場に似つかわしくない幼い子供の声が聞こえてきた。声の方に体を向けると、いつの間にか2人の子供が立っていた。7、8歳くらいだろうか。どちらも髪は薄緑色で、女の子の方は頭の上の方でお団子にしている。お揃いの緑と白のセーラー服を着ていて、見た目は可愛い双子である。
だが、2人の血のように真っ赤な瞳と放たれる独特の魔力が、彼らが影操者であることを暗に告げる。
双子は結羽達にぺこりと頭を下げると、元気に自己紹介をする。
「僕の名前はクルクマ! 影操者です!」
「私の名前はクレオメ! 影操者です!」
そして、彼らから放たれる魔力が高まった。こちらに攻撃するつもりか。
「何かする前に倒す!」
最初に拓士が飛び出して、双子に斬りかかろうとする。すると、彼らは一際大きな声で言った。
「せーの、“迷路”!」
「せーの、“迷路”!」
その瞬間、結羽達の視界が歪み、気づくと蔓のようなものに囲まれた場所にいた。そして、拓士と佳奈、結羽と未來がそれぞれ別の場所に分かれている。状況が理解できずに少し困惑していると、上の方からクルクマの声が聞こえてきた。
『皆さんは今、僕達の能力によって迷路の中にいます。ルールは簡単! 両チームの皆さんが制限時間内にゴールに辿り着き、ゴールにある鏡に手を合わせれば皆さんの勝利です』
そして次にクレオメの声が聞こえてくる。
『もしもゴールに辿り着けなかったら……みーんな一緒に食べちゃうからねっ!』
クレオメの言葉に結羽達は寒気がした。彼女の声音にはあどけなさと残酷さが入り混じっていて、ただの脅しではないことは誰もが分かった。見た目は子供でも、やはり影操者なのだ。
結羽達の空気に緊張感が漂う中、幼い双子の声が響く。
『制限時間は1時間! よーい、スタート!』
開始の合図が告げられた瞬間、結羽達は迷路の中を駆けだした。
登場人物の花言葉
クルクマ:「あなたの姿に酔いしれる」
クレオメ:「秘密のひととき」「あなたの容姿に酔う」