第二十八話 僕達の主
その翌日、拓士は氷で4つの墓石を、白い石でできた墓石の横に創った。父と母、リズとラルクの墓だ。彼らのことを覚えているのは、おそらく自分だけだ。だから、せめてこれだけは創っておかなければならないと思ったのだ。
それから2日後、拓士は迎えに来た伯父夫婦に連れられて、彼らの家に行った。元々、拓士は中学生から伯父夫婦の家で暮らす予定だった。拓士が生きていたから、彼らもそれを覚えていたのだろう。拓士の父と母のことは忘れてしまっていたが。
それに、拓士はどちらにしても、ここにずっといるつもりはなかった。あの男がこの場所に居続けるとは思えなかったし、何より、両親とリズがそれを望まないことを分かっていたからだ。
あれから6年が経ち、拓士がこの場所に訪れたのは、あの男を必ず倒すと改めて決意する為と、仲間が出来たことを報告し、彼らを安心させたかったからである。
「―――また来るからな」
あの場所から自宅に戻ってきた後、結羽は中々眠れずにいた。ベッドで何度か寝返りをしてから、やはり無理だと起き上がった。窓のカーテンを開けると、家々の灯りは既に消えていて、街灯と少しだけ見える星だけが夜空と道を照らしている。
6年前、拓士が一緒に暮らしていたリズとラルクを殺した男は、おそらく影操者だったのだろう。拓士の話から、その男が相当強かったことが分かる。それで考えたことがある。
もしかしたら、自分の両親を殺したのも、その男だったのではないか、と。
ロベリアが見せた映像に、両親以外の姿は映っていなかった。だが、彼はその時にこう言ったのだ。
―――そういえば最近、僕達の主が、すごい奴を殺したんですよ
“僕達の主”ということはつまり、彼らは誰かの配下なのだ。その主が、あの男なのではないかと思うのだ。確証などはなく、ただの想像に過ぎないのだが、直感のようなものが働いて、それを完全には否定できずにいる。
彼らが現れた目的はまだ分からないが、彼らと闘うことによって分かることがあるかもしれない。そして、最終的にはあの男に辿り着き、両親の死の真相が分かるのではないかと思っている。
結羽は軽くあくびをした。眠くなってきた気がする。カーテンを閉めて真っ暗になった部屋の中で、薄めの敷き布団をかけて目を閉じる。やがて、小さな寝息が聞こえてきた。