表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影闘士 ―Shadow Slayer―  作者: 玉子川ペン子
第一章
28/133

第二十七話 回想:砂漠の墓標

 リズの左目が緋色に染まり、召喚した深紅の双剣で男に斬りかかる。男は刀でそれを軽々と受け止める。怒りの形相で見上げるリズに、男は抑揚のない声で答えた。

「ああ。俺の視界に入ったから殺した」

「それだけの理由で殺すなんてっ……!」

 リズの感情に呼応するように双剣が炎を纏う。2人が剣戟を繰り返す中、拓士もリズに加勢する。この男が何者かは分からないが、これだけは分かる。

 油断したら()られる。

 拓士とリズが左右から斬りかかっても、男は涼しい顔をして刀で受け止め、弾く。刃同士が当たる金属音だけがその場に響いている。長い間続いている剣戟に拓士とリズは疲弊し始めていた。2人の額からは陽射しが理由ではない汗が滴っている。

 息をつく暇もない。瞬きをしている間に首を斬り落とされそうだ。実力の差は明らかだった。それでも逃げられない。こちらが勝つか負けるかまで、この闘いが終わることはないだろう。その時。

「―――――」

 男の音にならない声が微かに聞こえ、それと同時に凄まじい殺気が男から放たれる。拓士とリズは思わず、男から飛び退いて距離を取る。男の刃が届かない場所まで。だが。

「―――――あっ……」

 そんな小さな声が聞こえて、拓士は横を見る。信じられない光景に瞠目した。一瞬で間合いを詰めた男が、刃を何本も増やした刀で、リズの体を貫いていた。刀は引き抜かれると刃は1本に戻っていて、まるでスローモーションのようにリズはゆっくりと倒れていった。

「リズ―――!!」

 拓士はすぐに駆け寄り、リズの体を抱き起こす。左胸を中心に、赤い華が大きく広がっていく。

「リズ、しっかりしろ! リズ!」

 拓士がリズに声をかけ続けていると、ふいに影が落ちる。はっとして振り返ると、男が拓士を見下ろしていた。その目から感情は何1つ読み取れない。この距離では逃げるより自分が殺される方が先だろう。拓士は鋭い眼差しで男を睨みつけた。

「……良い目だ」

 男はそう呟くと姿を消した。2人きりになり、拓士はリズに視線を戻した。とにかくこの出血を止めないと。傷を凍らせようとした時、リズから弱々しい声が聞こえてきた。

「……やらなくて、いいよ………」

「大丈夫だ! きっとまだ間に合う―――」

 拓士はそう言いかけて絶句した。リズの足が、光の粒子になって消えていた。拓士が自分の足を見ていることに気づいたリズが、微苦笑を浮かべる。

「……もう、間に合わないよ。 ……体が、消え始めてるから……」

 影闘士とそうではない者の違いが1つある。それは、影闘士が死ぬ時、体が光の粒子となって消滅することだ。消滅すれば、影闘士以外の者はその記憶を失う。たとえ家族だったとしても。

 徐々に体が消滅していくリズを見て、拓士は悔しさと虚しさから思わず唇を噛みしめる。自分がもっと強かったら。男の動きに気づけていたら。リズが死なずに済んだかもしれないのに……。

 必死で涙をこらえている拓士の手を、リズが握る。そしてふわりと微笑った。その瞳からは雫が零れ落ちた。

「……拓士……ごめんね………今まで、ありがと―――――」

 そう言った後、リズは消滅した。リズが消滅した直後、拓士はこらえていた涙を流した。誰もいない砂漠で、拓士1人の泣き声だけが響いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ