第二十六話 回想:赤い瞳の男
リズ達と暮らし始めた拓士は、リズから影鬼との闘い方を学んで、すぐに上達していった。共に暮らし、共に闘いながら、拓士はリズ達について知るようになった。
リズは影闘士の中の炎属性で、武器は双剣だった。彼女が影闘士になったのは4年前、家族3人が影世界に引きずり込まれた時だという。その時に影鬼からリズを庇った母親の李沙が殺されて、リズが影闘士として覚醒したそうだ。
リズは今でも悔やんでいる。もしも影闘士として覚醒するのがもう少し早かったら、母も生きていたかもしれないのに、と。そう悲しそうに微笑むリズを、拓士は撫でて慰めることしか出来なかった。
そしてリズ達と拓士が一緒に暮らし始めて2年の月日が経過していた。12歳になった彼らは、心身ともに成長し、ずっと昔から一緒にいるかのように絆を深めている。
共に影闘士の力を磨いてきた2人は、影鬼の倒した数を競うようになっていた。影鬼を倒して影世界から戻ってきた2人は、それぞれ倒した影鬼の数を主張する。
「今倒したので、ちょうど500だから、今回もあたしの勝ちだね!」
「いや、お前はさっきので497だろ。俺が500ちょうどだったから、今回は俺の勝ちだぞ」
そんないつも通りの会話をしながら、少し離れた場所にある家まで帰る時、家の方でラルクの悲鳴が突然聞こえてきた。2人は話を中断して慌てて駆け出した。
家の前に着くと、体を真っ赤に染めたラルクが倒れていた。
「父さん!」
悲鳴のような声を上げてリズがラルクに駆け寄る。左胸を中心に鮮血がとめどなく溢れていた。ラルクは薄っすらと目を開けてリズに何かを言おうとするが、それは言葉にならず、事切れた。
リズがラルクの亡骸を抱いて動かずにいる時、拓士はある違和感を覚えていた。ラルクが生き返る様子は全くない。ということは影鬼に殺されたのだろうか。だが、影鬼に殺される時は必ず影世界に引きずり込まれるのだ。だから、ここに肉体が残るはずがない。ならば、一体誰に……。
その時、何者かの気配を感じて、拓士とリズは振り返った。彼らから少し離れた場所に、1人の男がいつの間にか立っていた。肩につく程度の銀髪に、血のように真っ赤な瞳。着ている黒い着物の裾の部分には、紫色の蝶が舞っている。そして、男が右手に持っている刀には、滴るほどの血が付いていた。
「……あんたが殺したの?」
拓士の隣から少し震えた声が発せられる。そしてラルクの亡骸をそっと地面に降ろす。男は何も答えず、刀に付いた血を振り落とした。砂が血を吸ってそこだけ赤く染まる。
「あんたが父さんを殺したのか!」