第二十三話 覚悟
その1週間後の休日、拓士は結羽達を夜の公園に集めた。
6月も半ばだが、夜はまだ空気がひんやりとしている。
「急にどうしたの? みんな集まってくれって言ってたけど」
結羽の質問は、未來と佳奈も訊きたかったのか頷いている。
「……この前の結羽を見て、俺もあの場所に行く覚悟が出来たんだ」
「あの場所?」
結羽達は、拓士の言葉を反芻する。
すると拓士は、佳奈に自分のスマートフォンの画面を見せる。
「この場所に俺達を連れていけるか?」
画面には地図が表示されている。どうやら、ここからかなり離れた場所のようだ。
「お前の力で、行けるか?」
力とは、影闘士の力のことだ。
「もしかして、私の風を使って行くんですか?」
驚いた様子の佳奈の問いに拓士は頷く。
「そうだ。今までは1人じゃ行けない場所だったし、俺自身も行くことが出来ずにいた。だから、覚悟が揺らぐ前に行きたいんだ。頼む」
拓士は佳奈に頭を下げる。彼の真摯な態度に、佳奈も腹を括った。
「……分かりました。頑張ります!」
佳奈は拳銃を召喚すると、親指を強く噛んで、そこから滲んだ血を拳銃に付ける。
「行きます!」
そう言って佳奈は拳銃で地面を撃った。
すると、結羽達4人を竜巻が包み込み、全員の体がふわりと浮いて上空まで上昇する。
「じゃあ、行きますよ」
佳奈の言葉に3人は頷いた。
4人を包んだ竜巻は、猛スピードで夜空を飛んでいった。
空を飛び始めてから数十分が経過した時、ずっと無言だった拓士が口を開いた。
「―――ここで降ろしてくれ」
佳奈は頷き、竜巻を地面にそっと降ろすと、それが一瞬で霧散する。
到着した場所は、砂漠に建つ古びた家の前だった。家の横には、氷で作られた4つと、白い石で作られた1つ。合わせて5つの墓石のようなものがあった。
拓士は、青紫色の花束を墓石の前に置く。その瞳には、やっと来られて安心しているのと、今まで来られなかったことへの自責の念が映っている。
「拓士君、ここって一体……」
人の気配が全く無い家と墓石を眺め、未來は拓士に問う。
「ここは、俺が両親を亡くしてから2年間だけ暮らしていた場所だ」