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影闘士 ―Shadow Slayer―  作者: 玉子川ペン子
第一章
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第二十二話 苗字じゃなくて

 軽く朝食を食べた後も、結羽は外に出る気になれなかった。何気なく包帯を巻かれた左腕を見ると、また涙が滲んできた。自分はいつからこんなに涙もろくなったのだろう。

 その時、インターホンのチャイムの音が響いた。未來だろうか。結羽は涙を拭うと、自室から出て、廊下を小走りで進み、玄関のドアを開けた。そこには結羽の予想に反して、いたのは拓士だった。彼が訪ねてくるのは初めてだと思う。

「おはよう。どうぞ上がって?」

 結羽は少し驚きつつも、拓士を家に入るように促す。拓士は頷いて素直に家に入る。彼を広間に通し、飲み物を出そうとするが、「すぐに帰るから」と断られた。

 結羽が拓士の正面にあるソファに座ると、拓士は結羽の包帯が巻かれた腕を見る。

「腕は大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

 心美に手当てしてもらい、痛みは全く感じない。

「そうか」

 少しほっとした様子の拓士は、今までの人を拒絶するような雰囲気は薄れ、穏やかさが漂っている。それで結羽は思わず口に出していた

「私ね。夢の中で、一希とお別れしたんだ」

 言った後に結羽は、はっとした。何を言っているんだ私は。拓士にとってどうでもいいことなのに。

「ごめん、今言ったことは……」

「知ってる」

 忘れて、と言おうとした時、拓士はそれを遮るように言った。

「え?」

 困惑する結羽に、拓士は続ける。

「その様子を、俺も夢で見ていたんだ」

 そこで結羽は分かった。一希が言っていた「あの人」とは、拓士を指していたのだ。そして、拓士は照れ臭そうに結羽から視線を逸らす。

「……今なら分かるんだ。お前があいつと一緒にいてイラついたのは……多分、俺はあいつに嫉妬していたんだ」

 拓士の言葉に、結羽も何故か恥ずかしくなって、少し頬を赤くした。

「そっか……」

 やがて拓士は結羽に視線を戻すと、真面目な表情になる。

「あいつには及ばないと思うけど、これからは未來と佳奈だけじゃなく、俺もお前を支えたい。だから……」

 拓士は一旦言葉を切ると、微笑して言った。

「俺のことも苗字じゃなくて、名前で呼んでくれ。俺もお前のことを名前で呼ぶから」

 ―――苗字じゃなくて名前で呼べよ。俺もお前の事を名前で呼ぶからさ

 同じだ。一希と同じことを言ってくれる人がいた。

 結羽は少し潤んだ瞳で、微笑んだ。

「うん……!」


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