第十六話 回想:夕陽が照らす笑顔
あの事件から、結羽と、結羽の周囲は一変した。
結羽は生徒と会話をするようになり、生徒達も結羽と話すようになり、仲良くなっていった。もう彼女に、何かに怯えていた頃の面影はない。
あの事件から1ヶ月が経ったある日の放課後、教室には結羽と一希の二人だけがいた。結羽は窓から夕陽を眺めながら、一希に言った。
「一希、ありがとう」
「ん? 何が?」
一希は結羽を見るが、結羽の顔は影になっていて表情が見えない。
「一希のおかげで、また心から笑えるようになったの。本当にありがとう」
一希は躊躇いがちに尋ねた。
「……やっぱり、前に何かあったのか?」
少し間があってから、言葉が返ってきた。
「……小学生の時ね、友達が亡くなったの」
「え……?」
思いもよらない言葉に、一希はそれ以上言葉が出ない。
「突然だったから、すごく悲しくて。 ……だから、もうそんな悲しい思いをしたくないから、最初から友達なんて作らない方がいいのかもって思ったの」
一希は無言で聞き続ける。
「それで、気持ちを隠して一人でいたんだけど……やっぱり寂しかったし辛かった。そんな自分じゃどうしようもない闇の中から出してくれたのが、一希だったの」
結羽が一希の方に振り向く。泣いているかと思ったが、笑顔だった。
「一希。こんな私だけど、これからもよろしくね!」
「ああ!」
結羽の笑顔に、一希も笑顔で返した。
その1週間後、一希は突然引っ越した。
父親の出張が理由らしいが、引っ越し先の住所も教えてくれず、電話も繋がらない。
一希の消息が途絶えた。