表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影闘士 ―Shadow Slayer―  作者: 玉子川ペン子
第一章
13/133

第十二話 悪夢の終わり

 ザクロの顔に、初めて動揺の色が広がる。

「驚きましたわ。まさか、貴女が影闘士になるなんて……」

 左目が緑色に変わった佳奈はザクロを睨み、今まででは想像出来ないような強い声で言った。

「『目の前に助けを求めている人がいたら、その人を必ず助けてあげてね』。そう最期に言われました。だから……だから今、ここで悪夢を終わらせます!」

 佳奈は深緑色の拳銃を構えて、ザクロに向かって駆け出した。

「初心者の影闘士など、すぐに片付けて差し上げますわ!」

 ザクロが佳奈に影鬼を召喚しようとした時、振り上げた左腕が焼き切られる。失血で青白い顔をした結羽が、双剣で切断したのだ。

「深手を負いながら、まだ動けるなんて―――っ!」

 ザクロの一瞬の隙を突いた佳奈は、拳銃でその体を撃ち抜く。ザクロの体はすぐに灰になり、影世界が消滅して元の場所に戻っていた。

「ゆ、結羽さん!」

 佳奈は結羽のもとに駆け寄った。壁に寄りかかっている結羽の腹部からは、出血が止まらず、彼女の顔は更に青白くなっていく。

「どうしよう……この近くに病院なんて……」

 おろおろする佳奈の背後から、誰かが近づいてくる。そして、佳奈に声をかけた。

「おい」

 佳奈が驚いて後ろを振り向くと、そこには拓士がいた。

「拓士さん!? どうしてここに?」

 拓士は佳奈の問いには答えず、結羽に近づくと、影闘士の力で傷を凍らせていく。

「とりあえずこれで何とかなるか……」

 拓士はそう呟くと、結羽を抱きかかえて歩き出した。拓士の思いもよらない行動に佳奈は瞠目する。

「え……? ど、どこに行くんですか!」

「病院に決まってるだろ」

「この近くにあるんですか?」

「ある」

 一瞬の沈黙が降りた後、佳奈は拓士に問う。

「……結羽さん、助かりますよね」

「……助かるに決まってるだろ」

 そして病院に着くまでの間、二人の間に会話は全くなく、どちらも無言だった。


 やがて、病院というには少しこじんまりとした建物の前に辿り着いた。拓士は玄関の横にあるインターホンを押す。

 すると、インターホンのマイク部分から女性の声が聞こえてきた。

『はい。ちょっと待っててね』

 足音が聞こえてきたと思ったら、少し大きめの玄関のドアが開き、黒髪を後ろで結んでいる白衣の女性がいた。女性は拓士に抱えられた結羽を見る。

「結羽ちゃん、また怪我しちゃったのね。拓士君、結羽ちゃんを病室のベッドに寝かせおいて」

「はい」

 女性はそのままどこかに行ってしまい、拓士は病室に入っていく。佳奈は一瞬、どうしようか迷ったが、拓士について行って病室に入った。

 拓士が結羽を真っ白な病室のベッドに横たわらせるとほぼ同時に、少し音を立てて病室の扉が開いて、先程の女性が入ってくる。その手には、包帯とパジャマがある。

「治療するからこれ、持っていてくれない?」

「は、はい!」

 佳奈は女性に話かけられたことに驚きつつも、返事をして渡された包帯とパジャマを持つ。するとその直後、女性の左目が水色に変わり、空色の杖が召喚されて、結羽の傷口に杖を当てる。

 闘う時とは違う、優しい魔力が発せられ、少しずつ傷口が塞がっているように見える。

 半分くらい傷口が塞がった時、女性は杖を消す。

 女性の額には汗が滲んでいる。見た目より、多くの魔力を使うようだ。

「結羽ちゃんをパジャマに着替えさせるから、手伝って」

 女性がそう言った途端、拓士は病室の外へ出てしまう。

「あれ? 拓士さん?」

 不思議そうな佳奈に対し、女性はくすりと笑う。

「結羽ちゃんに気を遣っているのよ」

 女性は傷口に包帯を巻き、佳奈は結羽を私服からパジャマに着替えさせる。

「ありがとう。おかげで助かったわ」

 女性が佳奈に向けて笑みを浮かべる。結羽の着替えが終わったことを察したのか、拓士が病室に入ってきて、頭を下げる

「心美さん、ありがとうございました」

 そしてすぐに病室から出ていった。

 この人は、心美さんというのか。

 病室から出て行こうとする心美に、佳奈もお礼を言う。

「結羽さんを助けていただき、ありがとうございました」

「そういえば、貴女の名前を聞いてなかったわね。名前は何ていうの?」

 佳奈は少し恥ずかしそうに微笑みながら答えた。

「柳佳奈です」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ