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影闘士 ―Shadow Slayer―  作者: 玉子川ペン子
第四章
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第百十話 目覚め

 ある影世界の中央に、寝台が置かれている。その周りには多くの花々が飾られていた。その寝台で眠っているのは、一人の女。腰まで届くふわふわした、淡い(だいだい)色の髪で、纏っているのは、桜色と臙脂(えんじ)色の袴だ。袴の袖には、紫色の蝶が舞っている。

 女はやがて目を覚まし、血のように真っ赤な瞳が現れる。彼女の瞳に最初に映ったのは、スターチスだった。だが女はスターチスのことを知らず、どうして自分がこんなところにいるのか、無言で戸惑っていた。

 そんな女に、スターチスは優しく微笑む。

「お前は今、影操者になったんだ。だから、ここにいる。俺は、スターチス。影操者を統べる存在だ」

 女はまだ戸惑いつつも上体を起こし、スターチスを見上げる。彼が、私を助けてくれたということだろうか。ならば彼に従うべきか。

 そんな女の姿を愛おしそうに見つめているスターチスは、彼女の頭を優しく撫でる。

「お前にはまだ名前が無かったな。……今日からお前の名前は“リナリア”だ」

「リナリア……」

 女は与えられた名前を反芻する。可愛らしい名前なのに、どこか切ない響きだ。

 そしてスターチスはリナリアに何か差し出す。それは、蝶をかたどった髪飾りだった。

「そこにいるジニアに髪を結ってもらえ。俺には髪型のことなど分からないからな」

「……はい」

 リナリアは頷く。するとジニアがリナリアの傍にやってきて、彼女の髪をまとめ始める。つむじに近い箇所で結い上げると、リナリアから髪飾りを受け取り、結った紐を隠すように髪飾りを差し込む。髪を結ってもらったリナリアの姿を見て、スターチスは満足そうに微笑んだ。

 それから数日間、リナリアとスターチスは一緒に過ごしていた。リナリアはスターチスから影操者についての話を聞いていた。スターチスは影操者達を統べる主であること。影操者は影鬼を使役することが出来るが、弱い者を影世界に引きずり込んで捕食するのは、ほとんど野良の影鬼だということ。影操者には、それぞれ特殊な能力を持っているということだ。

 スターチスの話をリナリアはしっかり聞いていた。自分のことを真っ直ぐに見つめているリナリアに、スターチスはくすりと笑う。

「スターチス様? 私、何かおかしいことでも?」

 首を傾げるリナリアの頭を、スターチスは優しく撫でる。

「いや。真剣に俺の話を聞くお前が、可愛くてな」

 可愛いという言葉にリナリアは顔を真っ赤にして、スターチスから目を逸らす。ちらりと上目遣いでスターチスを盗み見ると、彼は穏やかな表情でこちらを眺めていた。再び頬に熱が宿りそうになった時、リナリアはあることに気づいた。スターチスは自分ではなく、自分越しに誰かを見ていることに。

それに気づいたリナリアの頬の熱は一気に冷め、代わりに興味を抱いた。スターチスが慈しむような眼差しを向けるのは、一体誰なのか、と。


 リナリアが目を覚ましてから数日後、スターチスは別れを惜しむような表情で、リナリアに言った。

「俺はしばらくの間、ここには戻らない。お前は好きにするといい」

「好きに……」

 好きにしろと言われて、リナリアは戸惑った。自分は影操者になって日も浅く、何をすればいいのか分からなかった。今の自分は、復讐したい者がいるわけでもないし、ヒトを捕食したいわけでもない。

 そんなリナリアの気持ちを察して、スターチスは優しく微笑む。

「すぐに決めなくていい。時間ならたっぷりある」

「……はい」

 頷くリナリアの頭を撫でると、スターチスは暗闇の中に姿を消した。


登場人物の花言葉

リナリア:「この恋に気づいて」

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