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影闘士 ―Shadow Slayer―  作者: 玉子川ペン子
第四章
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第百六話 代償

 それは、初めて出会った時と全く同じ台詞だった。そこに一片の優しさも思いやりも見出せない。まるで、初めて会ったかのように。

「ちょっと拓士君、どうしちゃったの? 結羽ちゃんよ?」

 未來が拓士に駆け寄り、慌てて声をかける。だが、拓士は分からないというように首を傾げた。

「……? 俺はただ、影闘士じゃないくせに飛び出したこの女をたしなめただけだぞ」

 その言葉に嘘偽りはなく、結羽達にある事実を突きつけようとしていた。

「……拓士君。結羽ちゃんのこと、覚えてる?」

「覚えてるも何も、こいつとは初対面だ」

 結羽達は絶句した。何故かは分からないが、拓士は結羽のことを全て忘れていた。


 学校から帰宅した結羽は、自室のベッドの上で膝を抱えてうずくまっていた。影闘士の力が失われていること。そして拓士が自分のことを忘れているということ。そんな大きすぎる出来事が二つ同時にやってきて、頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。

 影闘士の力が失われているのは、神の力を使って拓士を生き返らせた代償だろう。だが、拓士が自分のことを忘れているのも、果たしてその代償なのだろうか。それならば、とても悲しい。生き返らせたのに忘れられてしまうのは、悲しくて苦しくて、切ない。

 だが、ふと気づいた。他にも可能性があることを。今まで闇鬼に乗っ取られた一希と佳奈は、生き返らせることが出来ずに死んでいった。だが、拓士は今生きている。もしかしたら、闇鬼から解放された代償として、記憶の一部が失われているのかもしれない。

「……だから、何なんだろ」

 結羽は自嘲気味に笑った。拓士の記憶が失われた原因が分かっただけで、解決策が見つかったわけじゃない。

 ―――ただの人間が出しゃばるな

 心にずきりと痛みが走った気がした。だが、涙は出ない。ぎりぎりで心が止めているのだ。まだ泣く時ではないと。記憶を失ったのなら、もう一度仲良くなればいいだけだ。たとえ長い時間がかかったとしても。

 ―――俺もお前のことを名前で呼ぶから

 また、名前で呼んでほしいから。


 学校の昼休みの屋上。拓士に未來達が話す中で、拓士は結羽のことだけ忘れていることが分かった。今までの出来事は全て覚えているものの、結羽が最初からそこにいないことになっているのだ。その中には結羽がいなければ意味の分からない記憶もあり、拓士自身も違和感を覚えているらしい。

「だがそれは、過去に過ぎない。影闘士でもない奴との関わりなんて、覚えている必要もないだろ」

 そう言い放つと、拓士はさっさと屋上の扉から出て行った。しばらく経ってから、未來が結羽に申し訳なさそうに言う。

「……ごめんね、結羽ちゃん。嫌な思いさせちゃったね」

 そんな未來に結羽は苦笑を浮かべた。

「どうして未來ちゃんが謝るの? 未來ちゃんは悪くないのに」

 重苦しい空気が結羽達の間に流れる中、飛鳥はそれを払拭したくて話題を変える。

「そ、そういえば、影闘士の力の方はどうなんですか?」

「うん……」

 結羽は自分の手のひらを見つめる。いや、手のひらではなく、そこにあったはずの自分の武器を見つめているのだ。

「留羽さんにも相談してみたんだけど、いつ力が戻るかは分からないんだって。でも、こう言ってくれたの」

 ―――私も力を戻す方法を探してみる。元々、こうなったのは私の責任だしな

「拓士を生き返らせるのを決めたのは私なんだから、責任なんて感じなくていいのにね。……私って恵まれているね、こんなに優しい人達が仲間になってくれたんだから」

 だが、そこに拓士はいない。


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