第1.5話「その時から全力で」
あれだけ楽しかった空奈ちゃんとのラストライブは、いよいよ最後に一曲を歌うだけとなった。
転生をするにしても、違う人として接しなければいけなくて、それ故に私は転生をするつもりはない。
2年半という、短いようで長かった私のVライバー活動もこれで終わり。
「・・・もうこれで終わりなんだよね」
空奈ちゃん、もとい由比ちゃんがそう呟いてこちらを涙目で見た。
「うん。だから最後に一曲、空奈ちゃんにオリジナルソングをプレゼントします」
映像では私と空奈ちゃんを照らしているライトを残して、照明が消えた。
それから曲が始まり、ゆっくりと歌いだす。暗いようで、明るい曲調。
私が好きなアーティストの曲調を模しつつも、私のイメージに合わせたもの。
いつもの日々が繰り返される 歩き続ける日々に 私は君を見つけた
ぐんと空へ上る君と歌いたい そして一緒に歌って 遊んだ
不意に聞こえる君の本音 冗談交え 共に歩く
桜が空に舞い 音は羽に任せ 君たちの元へ飛びゆく
君がいる それなら続く 私の道
思いを託せば 君は前を見て 歩き続ける
あえて安直な歌詞を構成したのは、伝わりやすくする為。
歌い終えた時、由比ちゃんは泣きながらゆっくりと私に抱きついてきた。
「終わらせないでよ・・・引退しないでよ・・・」
「よしよし・・・」
頭を撫でてあげると、由比ちゃんは声を出して泣き続ける。
コメントをチラリと見ると、みんなも泣いている様子が伺えた。
「ほら、ハンカチだよ」
「早いよ・・・もっと歌いたかったのに・・・」
きっと由比ちゃんにとって私の引退は早すぎたのかもしれない。
再会して、Vの者として競演して、それから半年で最後が来た。これは私の罪かな。
だからぎゅっと抱きしめてあげた。精一杯の愛を込めて。
これだけじゃ足りないから、これから由比ちゃんをカバーできる何かをしていこう。
ライブが終わると、由比ちゃんの登録者数は私のファンが推し始めたからか、一気に14万人になった。
これできっと、彼女の100万人への道の手助けになる。でもまだ足りないと思う。
最終日から数日が過ぎた。
配信をしない生活はとても物寂しくて、心に大きな穴が空いたように感じる。
私はまた、一人の配信者として音声のみの配信をしている。だけど、やっぱり以前ほど賑わうことは無い。
用事があると伝えその配信を終え、一つの建物の前に立つ。以前来た事のある建物。
スカイスタジオ株式会社。元旦の日に採用試験の有無を確認したら速攻でOKが出て、履歴書を持ってやってきた。
これからの私の居場所はここになるんだろうか。それともはじかれるのだろうか。わからないけど。
「やってみるしかないよね」
決意を言葉に、その事務所へと入る。収録所と書かれたドアは少しだけ空いていて、誰かがいるようだ。
いた。群青色の髪の女性が。
でも私は声を掛ける事なく、奥の社長室と書かれたドアの前に立つ。そのままドアを3回ノックすれば、すぐに応答。
部屋に入れば質素なテーブルやイスに、スペックの高そうなパソコンの前に座る女性。高そうなスーツに身を包み、すぐにこちらを見る。
「いらっしゃい。松本美羽。ううん、音羽イブキちゃん」
「やっぱりばれてましたかぁ」
やっぱり声ですぐにバレてしまった。
「そりゃね。じゃあ早速」
私は緊張を隠そうと、小さく深呼吸をした。
「はい。明日からの予定などなど」
「へ?」
予想ではこれから面接となり、私の経歴や趣味などをとことん漁られるはずだった。
だけど渡されたのは数枚の資料。給与や福利厚生などの詳細や、用意するもの。
「あの、面接は?」
「面接は無いよ。基本的にうちの会社は来る人が必ず由比の知ってる人だから。一人を除いて」
なんだか調子が狂ってしまった。でもいいや。
予定表には由比ちゃんのマネージャーとしてのスケジュールが記載されている。桜宮空奈としてのスケジュールが。
「この間はありがとね。私もスタッフも全員泣いてたよ、キミの歌で」
「こちらこそありがとうございます」
「それじゃ、これから少し由比とお話をしてもらうよ。こっち来て」
これから、私は由比のマネージャーとしての生活が始まる。
とことんまで手助けをして、100万人の高みを見せてあげなきゃ。




