第19話[ 後編 ]「再び戦う者達」
冷たい雨の降る中で、私達三人は東京奪還作戦が行われた地へやってきた。
この場所に、長倉さんは眠っている。周囲には大破した兵器の残骸があって、両軍が調査して搭乗していた兵士の名前が刻まれている。
更に奥に進めば、二機の戦闘機の残骸。Su-30戦闘機と、F-2戦闘機。
「お久しぶりです。長倉さん」
私はF-2戦闘機の残骸へ話しかけた。黒く焼け焦げた機体の傍には立看板がある。
扶桑空軍 第3戦闘飛行隊 長倉敏三 少佐 44歳。そう記されていた。
「お父さんもお母さんも、私も、元気に生きています」
そう報告した後、私は頭を下げた。
「長倉さんのおかげで、生きています」
23年前のあの戦争と、先日のあの事件。二回も助けられた。
だから今こうして生きている。人々の希望になれている。
私は昨日修復したクマのぬいぐるみを残骸の横に置くと、手を合わせて祈るように呟く。
「長倉さん、ありがとうございました」
クマのぬいぐるみをこの場所の鎮めとして、半ば封印のような形で。
青白い光と共に、クマのぬいぐるみはゆっくりと光となって消えていく。
「由比・・・」
「うん。長倉さんに返そうと思ってね」
夜になって、私は二人と一緒に夜空を眺めていた。二人とも少し容姿が変わっただけで、あの時と何も変わらない。
静音は右手が治り、ようやく練習を再開し始めた。朝奈は声優としての仕事も順調だという。
私は私でVライバーとしてどんどん登録者数も増え、次に目指すのは10万人の突破。
部屋へ戻ってくると、備え付けのカラオケで歌う事になった。
ついついあの時の事を思い出してしまう。エリと一緒にいた時の事。
「エリって、今何してるんだろう」
「ああ、この間アスタリカ国内であったよ」
「は?」
思わず静音の方を見た。でも静音は複雑そうな表情だ。
「今のこの一連の件が終わったら会いに行くって言ってた。だから、今はいいかなって」
「そうね。本人が今すぐに会いたいって言うわけじゃないなら」
「それに、相変わらずステルスヒューマンだったよ。気が付いたら横にいたんだもん」
実はそういう能力の持ち主じゃないかと静音は言う。確かに、普通の人ならそういう事をするのは難しい。
エリは今、FBIの捜査官として大活躍しているらしい。変装のレベルも高く、更に人に察知されにくいのを有効に活用している。
「で、そのエリなんだけど・・・40過ぎのはずじゃん?」
「うん」
「そうね」
「25か6くらいの若いお姉さんでした」
「はっ?」
「えっ?」
23年前に21だったはずで、それなら今は44歳くらいのはず。それがどうしてそんな事に。
詳しく聞きたいけど、今は会う事は出来ない。
「でもそれなら、早くこの一連の事件を終わらせて会いましょ」
「そうそう!その旧支配者とかいうのの復活を阻止すればいいんでしょ?」
「確かにそうだけど、かなり手強いからね」
とはいえ、由里さんもボリスも、各国上層部も動いている。人類の未来の為に。
私の役目は二つ。ファンのみんなをはじめとした人々を勇気付ける事。もう一つはみんなを守る為に戦う事。
やがて朝を迎えて、私と静音と朝奈は外へ出た。
眩しい太陽はまるで人々の未来を照らすように。空は青く晴れている。
「降雨一転、雲無き空は青く晴れ」
静音がそんな言葉を口にした。聞くと、どうやら即興で作ったとの事。
次に、静音は一枚の書類を私達へ見せた。
「実はこの度、扶桑空軍第303飛行隊へ配属されました」
昨日といい今日といい、静音は爆弾発言ばかり。私は思わず軽く平手打ちをした。
「どうして大事な事ばっかり連続してるの!」
「いでで・・・ごめんって・・・」
でも、静音もこれからまた空で戦う事になる。それは彼女の覚悟だろう。止める気は起きなかった。
「私は二人みたいに戦えないけど、いつでも応援してるから!」
朝奈は少しだけ寂しそうに、笑顔を見せていた。そこに出会ったばかりの頃の、時々見せる不安な様子は無い。
未来が変わり朝奈も変わったんだと、私はそう感じた。二度と不安にさせるものか。
「長倉さんに二度救われた命だ。必ず生き延びて、みんなを守る」
二人に聞こえないように、そう呟いた。
私は視線をその空へと向けた。世界を包み無限に広がる、群青の空へ。
これにて群青の空へ3章は終わりとなります。
どうしてかと言いますと、一度ここで区切って後編として続きを書いていこうと考えたわけです。
まだまだ書きたい話はたくさんありますので、変わらずご愛読をいただければと思います!




